Ricola

火の馬のRicolaのレビュー・感想・評価

火の馬(1964年製作の映画)
3.8
少年の成長と恋や出会いと別れが、季節の移り変わりとともに鮮やかに描かれる。
また、伝統儀式などの風俗の側面も作品の大きな見どころだろう。
しかしそれ以上に、映像の多彩な見せ方が素晴らしい作品である。
技巧的な演出が多いが、その技術力に甘んじているというより、そういった演出によってもたらされる効果を重視しているのだろうと思わされる。


冒頭のシーンにて、上から落下するように動くカメラワークに驚かされる。
その後もカメラは素早くかつ縦横無尽に動くことで、状況説明の役割をほとんど担っている。
しかしそこから急に主観ショットに切り替わると、斧が振り落とされて血がカメラのレンズに張り付く。たらりと垂れていくと、その血は赤い走る馬のシルエットを想起させ実際に映像として現れる。
現実的なものから非現実の世界へ導かれていく。

この斧は作中において何度も現れるモチーフのようである。
生活に必須なものとしての斧であり、人や動物を殺める際に利用される斧なのだ。

まっさらな雪景色の中、何も障害物はないが、裸の細い木々の奥にいるイヴァンコとマリチカをカメラが追う。
それから季節は春になり、花が咲きほこる草原でぐるぐる回って遊んでいる。
地面に寝そべったような位置からカメラが向けられているため、小さな花もそびえ立つように見える。
川へと子どもたちは向かい、木漏れ日が注ぐあたたかなオレンジ色の光に包まれている。
イヴァンコが立ち止まっているショットで、後ろに木々があり、彼の左右から光が降り注いでいる。このショットがあまりに美しく、彼らの輝かしい青春を体現しているようだ。

大人になった二人は愛し合うようになる。自然の中で二人で抱き合うショットは、多幸感に満ちあふれている恋人たちの高ぶる感情が余すことなく表されている。二人を軸にカメラは回り込んで彼らを映すが、光の具合と木々の配置によって映り方が変わる。
彼らの前に、草木が日光に反射して生まれる緑の光や、日陰ではっきりと見える茶色の枝などが現れる。
人生にはさまざまな側面があることを、すでにここで予告しているようだ。

少しであるがモノクロ映像が插入されるカラー映像の動的な演出と比べると、静的でおどろおどろしいが、カラーとは異なった鮮やかさを感じる。とは言え春がきても、カラー映像のような華やかさはない。その鮮やかさというのは、白と黒のコントラストがはっきりしているなかでも、濃淡のグラデーションが美しいということを指す。

モノクロから急にカラーに切り替わるタイミングにはっとさせられる。
蝋燭の炎から回想へと誘われる。ゆらゆらと心もとない炎の動きを見つめていると、あの頃の記憶がよみがえってくる。
思い出が二重露光によって重なり合い、次々と消えては現れていく。

馬に乗る人や歩き踊る人々を、紅葉した木々を手前に目に留めるのは難しいほどの速さのカメラが捉えているシーンもお気に入り。
カメラはときに歩くほどの速度になるが、すぐに元のスピードに戻る。
あまりに速すぎるスピードのため、映像の詳細まで認識するのは難しい。
しかしそのショットは、点描画を間近で見たような抽象度と色の鮮やかさが際立っていて美しいのだ。

このように、平面的で絵画的なショットと、大胆なカメラワークや編集によって生まれる立体的で臨場感のあるショットのギャップがたまらない。
一人の男性の人生の喜怒哀楽が、ときに抽象的にときに具体的に表現される。
自然の恵みや美しさと残酷さが表裏一体であるように、人生では過去の悲しみや喜びを抱きながら現実を歩まなければならない。
Ricola

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