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輪舞のukigumo09のレビュー・感想・評価

輪舞(1950年製作の映画)
4.0
1950年のマックス・オフュルス監督作品。1902年ドイツ生まれの彼は10代の頃から舞台俳優として活動を始め、後に舞台演出家になる。ドルトムント市立劇場の初代監督になり、1926年にはウィーンのブルク劇場のクリエイティブ・ディレクターに就任し、200本近くの演劇を上演した。1929年に映画製作に転向し、ベルリンのUFA社でアナトール・リトヴァク監督の元でダイヤローグ担当としてキャリアをスタートさせる。1931年から監督業に進出した彼のドイツ時代の代表作は『恋愛三昧(1932)』だろう。アルトゥル・シュニッツラーの戯曲が原作というのも舞台出身のオフュルスらしい所だ。この作品ですでに、豪華なセット、女性中心の物語、快楽の隣にある不幸、年代の違う男性たちの対立など後のオフュルス作品の特徴となるような事柄を多く見る事ができる。ユダヤ人であった彼はナチスの台頭によりフランス、イタリア、スイスを経て1940年にアメリカに渡るがなかなか仕事にありつけず、アメリカで映画を撮り始めるのは戦後の1947年の『風雲児』からとなる。アメリカではメロドラマの秀作『忘れじの面影(1948』を含む4作品を撮った後、1950年にヨーロッパに戻るのだが、ヨーロッパ復帰第1作目が本作『輪舞』である。

『輪舞』は『恋愛三昧』と同様にシュニッツラーの戯曲が原作となっている。舞台は1900年のウィーン。原作との違いは狂言回しの男(アントン・ウォルブルック)が登場することだ。開巻彼が現れると、カメラと共にゆっくり移動し、メリーゴーランドを回し始め、恋の輪舞について朗らかに説明する。この映画では10人の男女が2人ずつ登場し、それぞれ情事の相手を変えていき、最終的に円をなすことからメリーゴーランドが本作のイメージと合致するのだ。ワルツの音色をバックに最初に現れるのは娼婦のレオカルディ(シモーヌ・シニョレ)だ。彼女は若い兵士フランツ(セルジュ・レジアニ)に一目惚れするが、フランツは若いメイドのマリー(シモーヌ・シモン)を騙して処女を奪う。マリーは奉公先の青年アルフレード(ダニエル・ジェラン)の最初の相手になると、アルフレードは自信ができて人妻エマ(ダニエル・ダリュー)を自室へ誘う。夫シャルル(フェルナン・グラヴェ)の元に戻ったエマは寝室で貞操について話題に閉口する。一途な愛を語っていたシャルルは18歳の売り子アンナ(オデット・ジョワイユ)に夢中だ。そんなアンナは有名な詩人ロベール(ジャン=ルイ・バロー)に惹かれて接近を試みていたが、ロベールが本当に愛していたのは舞台女優シャルロット(イザ・ミランダ)だ。愛について奔放なシャルロットの舞台での姿に魅了されてデートに誘った若く生真面目な伯爵(ジェラール・フィリップ)は、彼女に強引に肉体関係を迫られ引いてしまう。愛に幻滅した伯爵はヤケ酒でフラフラになり気付いた時に隣にいるのは最初に出てきた娼婦レオカルディだった。

シュニッツラーの原作は当時の道徳観では多数の批判があり、上演禁止や裁判になるなど問題作であった。本作では裸体などは出てこないとはいえ同時代の作品に比べてかなり率直に性的な問題を扱っている。前年まで性描写により厳しかったアメリカで映画を撮っていたオフュルスならなおさら意図したものだったのだろう。到底幸福とは言えない様々な愛の形はオフュルス的宿命論と言える。登場人物たちの運命を間近で見守るアントン・ウォルブルック演じる狂言回しは、ある時は御者として、またある時はレストランのマネージャーとして変装して姿を現し、彼の歌うような語りとユーモラスな姿が、希望の持てない愛という問題さえ軽やかに回してくれるのだ。
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