絵で語る。これぞ映画。なんでも説明しない。余白があって大変いい。
「あいつはもう終わりだ」とセリフで語らず、閑古鳥が鳴く客席をしきりに映す。
黒澤明の「まあだだよ」のように人生最後に撮るような雰囲気だと思ったら、ジャック・タチが残した最後の脚本だったんですね。
タチ自身、映画監督になる前はパントマイムを志していたようで、自伝的でもあった。
作品全体から漂う「老兵は死なず、単に消え去るのみ」の精神。
エディンバラ、ケルト音楽、フィッシュ&チップス、紳士文化。英国色強め。
2Dの美しい構図から、ペン画の繊細な線で書かれた背景が立体的に浮かび上がり美しい。特にラストの本のページがめくれてる影が鳥になるシーンが白眉。
台頭してくるロックミュージックの波に古典的な娯楽が次々と滅んでいく。
ロリータや痴人の愛のように、おじさんが少女にのめりこんでいく映画かと思いきや、人生の最終幕の去り際を見たような趣ある映画でした。