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カラマリ・ユニオンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カラマリ・ユニオン(1985年製作の映画)
3.9
 ドラム・セットの前に陣取った男はひとしきり太鼓を叩いた後、静かにスティックを置く。労働者の街ヘルシンキ・カリオ。ある日の食堂には15名の「フランク」と呼ばれる男が集まっていた。男たちはみな寡黙で、サングラスの下の目線は隠れていて見えない。代表者のフランクは静かに作戦決行の合図を告げる。この街を愛し、ずっと生きてきたが我々は隣町にある理想郷「エイラ」を目指すのだと。そこは気候が穏やかで道も広く、空気も綺麗だという。路地裏で鬱屈した暮らしを送って来た15名もの「カラマリ・ユニオン」のメンバーたちは最初、地下鉄を目指すことに決まった。そこから先は中央を突破するも良し、北ルート、南ルート、どれを選んでも自由だとリーダーは告げるのだ。ユニオンに代々伝わって来たイエス・キリストの血と骨をお守りに、15人の男どもは一路「エイラ」の地を目指す。

 当初こそ威勢が良かった「カラマリ・ユニオン」だったが、彼らの道行きは最初から混迷を極める。英語しかしゃべらないペッカ(マルック・トイッカ)も交え、15名のフランクたちは思い思いの方法で「エイラ」を目指すが、どういうわけか一向に辿り着かない。それどころか各人はそれぞれに物語からの脱線を繰り返す。15名の「カラマリ・ユニオン」は最初から「フランク」選手権をしていたんじゃないかと思うほど、フランクたちは1人ずつ静かに脱落していく。人生において理想郷に辿り着くのはかくも難しい。人間は全員、この世に生れ落ちる前にDNAの段階でその過酷な生存競争を勝ち得て来たのだけど、それをもう一度実社会でやるのは極めて難しい。インテリの落ちこぼれどもは様々な悲喜交々を繰り返す。ある者は世界に向かって愛を叫び、ある者は過去に縛られ女に殺められる。そこまでして頑張って彼らは「エイラ」を目指すのだけど、ゴールとなるはずの理想郷はどこにもない。完璧な構図、モノクロームで浮かび上がる陰影のバランス、そして心底趣味の良い音楽の三位一体で成り立つ、最高のオフビートな不条理劇である。
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