ストレンジラヴ

屋根の上のバイオリン弾きのストレンジラヴのレビュー・感想・評価

屋根の上のバイオリン弾き(1971年製作の映画)
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「"Tradition"…伝統が失われればワシらの生活は不安定なものになる。それはさながら"屋根の上のバイオリン弾き"だ」

これほどまでに哀しく、暗いミュージカルが未だかつてあっただろうか?
読んで字の如く「The惨め」をタイトルに冠した「レ・ミゼラブル」でさえ、ミュージカルとしてはもっと希望に満ちた結末だった。
それに引き換え、運命に抗いながらも時代の波になす術なく翻弄される本作の人々。
そう、アナテフカ、アナテフカ、貧しきアナテフカ...だけど安息の地であったはずなのに。
舞台が舞台だけに、この時期に観てしまったことが尚更本作に対して陰影を与えたようにも思う(本来はやってはいけない見方なので、よい子は真似しないように)。
なんだかんだ言いながらも、家族を愛し愛されている牛乳屋テヴィエ(演:トポル)。娘たちを想う気持ちがなんとも言えない。特に次女ホーデル(演:ミシェル・マーシュ)が許嫁を追ってアナテフカを旅立つ場面は胸が締め付けられた。その後のロシア・ソヴィエト史に照らし合わせれば、この場面はおそらく今生の別れとなったはずだ。そこに幼少期からの思い出をオーバーラップさせる演出は映像だからこそできたことではなかろうか?
On the other hand, ただ哀しいだけではなく、ヘブライ文化の教典として観るとなかなか興味深いものがあった。風習や舞踊など、普段接する機会がないため色合いが暗いながらも鮮やかに映った(ボトルダンスってどうやってるのあれ?)。

題材が題材だけに、ミュージカルだからこそ成立しえた作品でしょうね。