マヒロ

奇跡の人のマヒロのレビュー・感想・評価

奇跡の人(1962年製作の映画)
4.0
ケラー夫妻の娘であるヘレン(パティ・デューク)は、幼い頃に罹った熱病の影響で目と耳が不自由になり言葉も話せない状態であり、愛情と哀れみをもって甘やかされて育った結果、稀代のワガママ少女に育っていた。あまりのわがままっぷりに手を焼いた夫妻が障がい者支援施設に相談すると、家庭教師としてアン・サリヴァン(アン・バンクロフト)という若い女性がやってくる。サリヴァンは両親による甘やかした対応を一蹴し、ヘレンに対してスパルタとも言える厳しい方法で「言葉という概念」と「礼儀」について教え込んでいく……というお話。

不勉強なものでヘレン・ケラーとサリヴァン先生の話は言われてみたら聞いたことある気がする……くらいのもので、何だったら鑑賞し始めるまでサングラスの人がヘレン・ケラーなのかなと思ってたくらいなので、ヘレンがこんなに暴君のような少女時代を送っていたのも、それに対するサリヴァン先生の捨て身の教育にも度肝を抜かれてしまった。タイトルとかの雰囲気からもっと穏やかな人情ドラマかと想像していたが、荒々しい二人の攻防は最早戦いといっても差し支えないような強烈さがあった。
食卓で歩き回り家族の皿から手掴みで盗み食いしたりするマナーもへったくれも無いヘレンを矯正すべく、二人きりでテーブルマナーを教え込むシーンは特に凄まじい。無理やりテーブルに着かせようとするサリヴァン先生に反発したヘレンは食器を投げるわ家具をひっくり返すわの大暴れを始め、それに対して意地でも引かずに言うことを聞かせようとするサリヴァンの様子は、殺し合い寸前みたいな鬼気迫る迫力があり圧倒される。

一方で、見ることも聞くことも出来ないヘレンに「言葉」という概念を教えてあげたいというサリヴァンの切実な願いもあり、自身も弱視であること、そしてヘレンくらいの歳の弟を病気で失っている過去から、家族からも半ば諦められている彼女をなんとか救おうとする姿は素直に感動的。
映画で描かれるのは、サリヴァンの想いがようやく身を結ぶ第一歩くらいまでの話だけど、一人の子供が人生を取り戻すことが出来た大いなる一歩であり、全てを描くのではなくてその絶頂の瞬間を切り取るというのが映画的で良かった。

(2022.152)
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