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アタメのakrutmのレビュー・感想・評価

アタメ(1989年製作の映画)
3.7
精神病院を23歳で退院した青年が、以前に一夜を共にしたことがある元娼婦の女優を振り向かせたくて監禁する様子を描く、ペドロ・アルモドバル監督の恋愛ドラマ映画。主人公の青年を演じるアントニオ・バンデラスがみせる、狂気なのか一途なのか区別がつかないような鋭い表情が秀逸。本映画での演技も後押しとなって、ハリウッドに進出することになる。一方、監禁される女優を演じたのは、本作がアルモドバル作品に初出演となるビクトリア・アブリル。彼女の体当たりの演技も称賛され、その後もアルモドバル作品に出演することになる。

この映画で最も重要なシーンで監禁されている女優が口にするセリフが原題なのであるが、それをそのままカタカナにした邦題はそのおかげで珍しくネタバレになっていない。でも、アルモドバル監督がわざわざそのセリフをタイトルにしたことを考えると、ストーリー展開そのものが描きたいものではないと言える。ストーリーや状況設定はあくまでも背景であって、ここで描きたいのは「純愛のひとつの形」なのである。ラテン気質のスペインだからこそ、これが純愛と見えるということもあるかもしれない。

このように捉えることができないままに物語内容に愚直に対峙すると、この映画を批判的に考えてしまうという愚を犯してしまう。実際に、ストーリー展開を愚直に追うことが正しい鑑賞の仕方だと信じているアメリカでは否定的な批評が少なくない上に、成人指定をめぐって法的闘争になるなど、本映画が正当に評価されたとは言えない。

アルモドバル作品の中では本映画はわりとシリアスであるが、それでも相変わらず彼特有のユーモア、エロ、ドラッグなどが散りばめられている。彼のミューズの一人であるロッシ・デ・パルマがドラッグディーラー役で出演していて、アントニオ・バンデラスをボコボコにするという、なかなか貴重な映像が見れる。
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