アニマル泉

怒りの葡萄のアニマル泉のレビュー・感想・評価

怒りの葡萄(1940年製作の映画)
5.0
フォードが2度目のオスカー監督賞、ジェーン・ダゥエルが助演女優賞を獲った、ジョン・スタインベック原作の映画化。グレッグ・トーランドの撮影が光と影の魔術だ。オークランドの曇天と砂嵐から始まり、暗い室内や夜の場面が多く、カリフォルニアに着いても闇の場面が多い。それを蝋燭や電灯や月あかりなどの最小限の光源でトーランドが見事に見せ切る。暗い場面の連続で、しかし人物の顔はしっかり浮かびあがる繊細な照明設計は至芸である。本作は見事な「闇」の映画だ。夜の月あかりが川面に反射する川での殺人場面が素晴らしい。そして冒頭から吹く風が官能的だ。
オンボロトラックに家族12 人と元説教師と家具を満載してルート66を西部に向かう物語だ。「駅馬車」と同じ、集団が乗り物で運命を共にする群像劇のロードムービーだ。トラックが走り始める、その走りが感動的だ。フォードは「乗り物」が実に上手い。
「家族」がテーマなのだが、母親のジェーン・ダゥエルが圧巻の素晴らしさだ。オクラホマを旅立つ時に一人で思い出の手紙を燃やしていく静かな場面がフォードタッチだ。フォードは静と動の場面の構成が素晴らしい。
祖母の死をオンで描かずにダゥエルの芝居で描くフォードの演出もいぶし銀だ。カリフォルニアのキャンプに着いた時の入居者たちの敵意の顔のモンタージュもフォードらしい。フォードはセリフがないノンモンの映像表現が素晴らしい。
フォンダとダゥエルの至福のダンスシーン、フォンダが唐突に歌いだすその音痴さ、贅沢なフォードの十八番だ。
本作はフォンダが刑務所から出所して家族のもとに戻るところから始まり、再び家族から去るまでの物語である。フォンダとダゥエルの別れの場面、ダゥエルごしにフォンダが去っていくロングショット、その次は普通は見送るダゥエルのアップとなるところだが、フォードはなんとロングショットのダゥエルで切り返す。引きのサイズでダゥエルが崩れるように座り込む。これは衝撃のショットだ。叙情的なアップではなく、ロングショットで、しかも去るフォンダのロングショットに重ねるという、途方もなく凶暴でアグレッシブなモンタージュである。フォードは怖ろしい。
20世紀フォックス、白黒スタンダード。
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