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劇場版 空の境界/第四章 伽藍の洞のtamasterのレビュー・感想・評価

3.8
 「未来福音」公開10周年の記念上映とやらがやっていたので観てきた。
第一章~第四章まで一気に観たが、第四章が特に印象深かったため、本章のみ感想を書いておくことにした。
 『空の境界』は初めての鑑賞だった。
 Fateシリーズを中心としたTYPE-MOON作品に触れていると、嫌でもその存在を目にする機会が多い。まるで、「『空の境界』も観てないと目一杯Fateシリーズを楽しめませんよ……」的な挑発を受けているような描写も本編に出てきており、「悔しいが、しょうがないから観てやるか……」みたいなテンションでこれまで何度か観ようとしてきた。しかし、そういう動機の場合はたいてい後回しにしがちなもので、結局これまで一度もその機会はやって来なかったのだ。
 今回、その重い腰を上げるに十分な機会が舞い込んできた。家で配信サービスを使って済ませてしまおうとも思っていたが、劇場で観られるとなるとちょっと嬉しくなって、つい、手が伸びてしまう。そんなこんなで、今回、ようやく『空の境界』を観るに至った。

 結果、めちゃくちゃ面白かった。ごめんなさい!
 ポエミーなセリフ回しは、最初こそ正直少し面食らったものの、「ああ、そういえば奈須きのこのテキストってこんな感じだったなぁ」と思い出して、慣れてくれば全く気にならなかった。どころか、感動的なシーンではむしろ心地良さすらもあった。
 気持ちのよいカメラワークが見られるアクションシーンも見ごたえがあり、この頃からすでにufotableのアクションは途轍もなかったんだなと驚いた。

 そして、第四章。
 不覚にも泣いてしまった。もの凄く勇気をもらった。
 梶浦由記はずるい。感動的なシーンであんな情感たっぷりの曲を出されたら、こっちも感動してしまうに決まっている。第三章まで何とか堪えていたのに、第四章はダメだった。
 そして、両儀式があんなにも前向きな形で「自分を殺して、自分を生きる」選択をしたのを見て、背中を押されたような気持ちになった。
 「空洞」のことを、これからどんどん満たされていくしかないポジティブなものなんだと力強く言い切った蒼崎橙子の一言が、現実に、自分自身に空虚さを感じてどうしようもなく満たされない日々を過ごしていた自分に深く刺さった。
 第四章は、このどうしようもなく虚無な時代を生きるすべての現代人が観るべき作品だ、と言ってしまってもいいくらいに良かった。
当初はそんなつもりで行った訳じゃなかったのに、不意にエネルギーをもらってしまった作品だった……。
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