ゴト

トト・ザ・ヒーローのゴトのレビュー・感想・評価

トト・ザ・ヒーロー(1991年製作の映画)
3.5
「歩いても歩いても」に「人生はいつも少しだけ間に合わない」みたいなセリフがあるけど、今作を観ていたらそれがふと頭をよぎった。

「歩いても歩いても」は、間に合わないことを恨み、悔やむのではなくそういうものとして受け入れる潔さや美しさがあった。でもこの映画はそういった美徳を描くのではなく、シンプルに赤ん坊の取り違えという不幸な運命に縛られた男を描いている。

個人的には、取り違えが無かったとしても、もう一方の人生をそっくりそのまま送れるとは限らないんだからあんまり固執し過ぎなくてもと思うけど、そうもいかないのだろう。

主人公トマとトマと取り違えられたアルフレッド、だが二人の関係性は決して対等なものではなかった。トマはいじめられっ子でアルフレッドはいじめっ子の中心的存在。家もアルフレッドの方が裕福で、貰えるプレゼントの大きさもアルフレッドのが上だ。それだけだったらまだ良かったかもしれないが、恋愛においてもアルフレッドはトマの前に立ちはだかった。

トマは、その生涯で二度大きな恋愛をしている。一人は姉アリスに、もう一人はエヴリーヌである。しかしアルフレッドもまたアリスを愛し、アリスの面影をエヴリーヌに求めていた。トマにとって、アルフレッドはいつか倒さなくてはいけない敵だったかもしれないが、同時に消さなくてはいけない影でもあったかもしれない。

ただ全体的にはトマのアルフレッドに対する殺意に観客として感情を追いつかせるのが大変だったという印象。

赤ん坊の取り違えとアルフレッド、アルフレッドと彼の住むカント家。それぞれが微妙にズレていてトマの殺意が本当はどこに向けばいいのか、それがぼやけてしまう気がしてもったいなかった。

クライマックスへの持っていき方と音楽はとても良かったので何とも惜しい感じ。
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