春とヒコーキ土岡哲朗

ハリー・ポッターと炎のゴブレットの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

分かってもらえないトラウマを持つことが何より恐怖。

ロンが最悪の思春期。
3大魔法学校の大会という盛り上がり要素と、ヴォルデモート復活に至るまでの暗さという、大きな軸と色があるんだけど、それ以上に気になるのは3人の関係がぎくしゃくすること。とりわけ、ロンが悪い。ハリーの大会参戦に嫉妬し、ハリーをズル扱いする。他の生徒ほど悪ノリはしないが、それは他の生徒が「世間の反応」みたいなもので、ロンはちゃんと血の通った怒りだから。そばにいた人間として本当に怒っている。それが誤解だと分かっているから、見ていてイライラする。それが解決したと思ったら、今度はハーマイオニーとダンスパーティで揉める。エマ・ワトソンがドレスで現れるシーンは、後の代表作『美女と野獣』と重なるような美しさ。それを見て、自分の恋心に自覚がないロンは、いら立ちを批判としてハーマイオニーにぶつける。ハーマイオニーは号泣し、去っていく。このとき、ハーマイオニーは「二人ともさっさと寝れば」とハリーにもしっかり怒っているのに、ハリーは「なんで喧嘩したの?」と自分と関係のないこととして処理していて、そのハリーのひどさも良い。知らないところで巻き込まれた立場なのは確かなんだけど、でも主人公としての選民思想が危ないぞ。この二つのもめ事、どちらも、ロンはたいして謝らずに終わる。ハリーとの件は謝る勇気が出なかったり照れ隠しもあったりしてうやむやに。ハーマイオニーとは一緒に大会の競技の人質になったからかいつに間にか仲直りしている。このうやむやさがリアル。

ダンブルドア、ヨーダ並みに無能。技量的にも性格的にも万能のリーダーと思っていたダンブルドアだが、誰かの罠に決まっているのにハリーを大会に参加させて、その結果セドリックは死に、ヴォルデモートが復活することに。ハリーをおとりにする賭けに出て、失敗した。不可能のない達人みたいな雰囲気だけどこの落ち度、クローン戦争に乗っかり、アナキンの闇落ちを止められなかったヨーダにそっくりだ。今回のムーディが偽物だと気付かないわけだが、思えば1作目ではクィレル先生の後頭部という至近距離にヴォルデモートがいるのも気づかなかった。議長がシスなのを気づかないヨーダと同じだ。

セドリックの死を背負わされたハリー。ハリポタシリーズを見返してきて初めて泣いてしまった。怖い思いをして大会を乗り越えた二人は、互いへの尊敬を失わずに同時優勝に手をかけた。しかし、セドリックは殺され、ヴォルデモート復活という最悪の結果になる。なんとか遺体を持ち帰るが、誰も彼の死に気づかず、皆拍手して歓声を上げている。自分が味わった恐怖と絶望を分かち合う相手が誰一人いない孤独。それを感じたため、ハリーが泣き出したときに彼のつらさに泣いてしまった。どんなに仲良しな友達がいようと、心に巣くう恐怖を追体験してもらうことはできない。人間はひとりぼっちだ。それを乗り越えて今後戦ってゆけるのだろうか。