せみ多論

苺とチョコレートのせみ多論のレビュー・感想・評価

苺とチョコレート(1993年製作の映画)
4.0
学生時代に見た映画。

人物の関係として、まず自由主義の象徴、つまりはキューバにおける反体制やマイノリティの象徴としてのホモセクシャルのディエゴが置かれる。
その対立項として、共産主義の象徴、体制派でマジョリティの象徴としてのミゲルが置かれている。
そしてその間に置かれるのが、主人公のダビド。彼がその異なる思想の人物との間で揺れ動く様子がとても見ごたえのある作品。

ダビドはミゲルの学友であり、立場としてもミゲル寄りというところから物語は始まるのだが、ディエゴと出会い、物語の展開と共にその考え方に変化が起きる。
ただし、この作品で一番共感できたところでもあるが、変化が起きるといってもダビドの思想が右から左へと行ってしまうものではないということ。

自分なりの解釈ではありますが、この作品は自由主義を讃えるわけでも、共産主義を否定するわけでもなく、またその逆でもないのではということ。

ディエゴはダビドと関係を持ちたいと思ってはいるが。ダビドはホモセクシャルではない。つまり彼らは違う”思想”の人間。
だから中盤でディエゴと触れ合うことを拒否したダビドが、ラストシーンで、ディエゴと熱い抱擁を交わすシーンはとても印象に残る。セックスではなく抱擁だからこそ意味がある。二人は差異というものを理解したうえでお互いを尊重しあう距離を見つけたのだ。
これは単純な性志向についてだけではなく政治的思想やその他諸々の差異についても言える、大きなメッセージ性を持っていると感じた。

この作品における最大のテーマは、こうした人それぞれの違いというものを、理解し認めたうえで、適切な距離や関係性を築くことなのではないか。
偏ったものというのを肯定したり、否定したりするのではなく、自らも含めそうであるのだから、ではどう付き合っていくのか、その一つのやり方を提示されたような気がした。
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