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裸の太陽のIMAOのレビュー・感想・評価

裸の太陽(1958年製作の映画)
4.0
青春映画の傑作だと思いました。(もちろん時代も世相も違うので、多少のバイアスはかかっていますが)

冒頭の方で機関師助手(カマ炊き)の江原真二郎の蒸気機関車が通過する汽笛の音を聞いて、恋人の丘さとみは畑で待っている。機関車が走ってくると、丘は走り出しカメラもそれを追従するようにドリーする。登場人物の感情が動き出すと同時にカメラも動き出す。とても単純で古典的な手法だが、とても映画的な手法…そう、映画とはMotion is Emotionなのだ!最近の映画ではこういうことを気づかせてくれる演出が少ない。
小学校からの友人で同じ国鉄に勤める友人(仲代達矢)が金を貸せと言われて、江原は仲代に金を貸してしまう。その金は江原が丘と一年かけて必死で溜めた結婚資金だった。おかげでデートする金も無くなった彼らは街を彷徨うが、競輪場からのバスから降りた仲代を発見する。仲代はビアホールに入り、ビールを飲む。恋人たち二人は、窓の外から仲代の様子を見て、仲代がきっと彼らの金で競輪賭博をして、ビールを飲んでいるに違いないと話し合っている。が、その声は店内から撮っているので聞くことが出来ない。こうしたサイレント的な演出も、サイレント期を体感している者でなければ出来ない演出だ。
そして、後半江原が乗る蒸気機関車は、勾配を上る時の砂巻き装置が故障して、登坂能力が落ちてしまう。このままではこの勾配を登り切ることが出来ない!そう判断した江原は砂を入れたバケツを持って機関車の前部に行き、必死で前輪の前から砂を撒き続ける。このシーンは機関車のメカニカルなシステムと人間の肉体とを対比しながら、リアルな画と音で説得力のあるシーンとなっている。
他にも良いシーンがたくさんある名作だが、今と決定的に違うと思うのは、やはり全体的に前向きで真摯な彼らの姿だ。現状の生活が苦しくても、いつかは…という希望がこの映画の根底にはある。だが、今の若者たちはこの映画を観て果たしてどう思うだろうか?そこに一抹の寂しさを感じたりもしました。
脚本は新藤兼人。音楽は芥川也寸志。
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