櫻イミト

傷だらけの挽歌の櫻イミトのレビュー・感想・評価

傷だらけの挽歌(1971年製作の映画)
4.0
アルドリッチ監督流アメリカン・ニュー・シネマ。実話ベースの地方ギャング・ヴァイオレンス。「いちご白書」(1970)のキム・ダービーが出演。原題は「THE GRISSOM GANG:グリッソム ギャング一味」

1931年アメリカ。5万ドルの首飾りを持つ令嬢バーバラ(キム・ダービー)は3人組のチンピラにさらわれ、さらに女ボスのグリッソム率いる残忍なギャング一味に横取り拉致されてしまう。しかし、グリッソムのマザコン息子スリムが人質の彼女に一目惚れし。。。

すごく面白かった。有無を言わさず即射殺の冷酷ヴァイオレンスにマザコン男&人質令嬢の駆け引きが絡み合い、先の読めないストーリーがやみくもに暴走していく。

登場人物がみな汗ばんでいるのがリアル。個人的に推しているキム・ダービーの化粧っ気のない顔と紅潮した鼻も、本作の世界観を形成する重要な要素になっていたと思う。拉致被害者の心の移り変わりを演ずる難しい役どころだったが、ナチュラルな喜怒哀楽で完走していた。ゴールの茫然とした表情はアルドリッチ監督があえて切り取ったのだろう。本作のグレードを上げるドキュメンタリックな1枚だった。

地方の一家に娘が拉致される設定には「ロリ・マドンナ戦争」(1973) が頭をよぎった。ストックホルム症候群の事件が起きたのも1973年。本作はその2年前に同様のシチュエーションを描いている。これらを結ぶ何かが1970年代初頭の時代精神に含まれていたのだろうか。

アルドリッチ監督がやりたいことをやった感の強い、現代のヴァイオレンス描写も舌を巻く逸品。
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