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男の顔は切札の一のレビュー・感想・評価

男の顔は切札(1966年製作の映画)
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安藤昇なかなか出てこないじゃんって思うけど、任侠モノと言いつつ実際はずっとヤクザから足を洗ったカタギ者たちとご近所さんたちの町内群像劇をやっている。配役クレジットは珍しい五十音順で、長門裕之や津川雅彦や東千代之介などスター級の役者はずらり登場するものの、つまりスターの映画ではないのだ(それでも安藤昇はちゃんとトップにくるようになってはいるのだが)。カタギ者が暴力に頼ることなく悪どい安部徹親分にどう抗するか。それは金と法律以外なく、だからこそいよいよ交渉(殴り込み)に向かうクライマックス、一般に任侠映画で最もエモーションが高まるシーンにおいて、その先頭に立つのは酒飲み弁護士・西村晃なのである。が、元々法の外側にいるヤクザに民法なんかは通用しない。そこへ安藤昇がふらりと現れて敵方に威勢よくピストルを撃つと、場がくぼむようにアウトロー地帯が生じてみんな暴れだす。演技の固さや妙に柔和な台詞回しのせいであんまりかっこよくない安藤組長が本作で担っていたのはこの磁場だったのだ。だが、安部徹の血は流れない。警察に連れていかれる昇が画面から捌け、それを見送るカタギの町民たちの顔に“終”が被さる。やはり任侠モノとしては異色か。轟夕起子の遺作らしいです。というか南田洋子も出てるし軽くファミリー映画。
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