むっしゅたいやき

あの彼らの出会いのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

あの彼らの出会い(2006年製作の映画)
4.8
死すべき哀れな存在、またそれ故の貴重さ、及び運命に就いて。
ジャン=マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ。
原作はチェーザレ・パヴェーゼの『レウコとの対話』より。
原作の全27編の対話より、最後の5編を映像化したものである。

個々の対話は各々、神話の世界の住人による「ひと」の逃れられない死と運命、生命の耀光に関する内容となる。
個人的には第四幕、メテレーとヘシオドスの対話に引き込まれた。
例によって話者に視線を交錯させない事に因る、何れも“対話”と言うよりは、虚空に思弁を投げ掛け、虚空より反応を貰う様な会話が特徴的である。

ストローブ=ユイレの作品では、演者が『自分が演じていること』を自覚している。
C.Th.ドライヤーの『奇跡』であの兄がそう演じていた様に、舞台劇の演技を屋外へ投入する事で我々に違和感を覚えさせる。
所謂ハリウッドやドラマの様な、没入感と一体感とはかけ離れた演出であるが、本作の様な神話の世界の住人を現すにはこの上無い演出であると考える。

本作より私が受けた印象や思弁、或いは「何故幕頭のタイトルは、話者二人の名では無く、それを演じた役者の名なのか」、「『“あの彼らの出会い”さ』と云う台詞の語調」への考察は、此処に披瀝しない。
言葉は概念を固定する。
その為本作より受けた印象や思弁を、私の貧弱な語彙で言の葉に乗せれば壊れてしまいそうな故である。
大切に心中に仕舞い込み、折りに触れてはそっと手のひらに乗せてしみじみと眺めたいのである。
ご斟酌頂きたい。

鑑賞後木漏れ日や袖を揺らす風に、神性と「ひと」の脆さ儚さを感じさせる名作である。
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