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ポーラー・エクスプレスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ポーラー・エクスプレス(2004年製作の映画)
3.7
 クリスマスイブの夜。もうクリスマスなんて信じないと思いながらベッドに入った一人の少年。しかし、真夜中目前の11時55分、少年の耳に地鳴りのような轟音が響く。驚いた少年が窓辺から見たものは、降りしきる雪の中を白い煙を上げながら近づいてくる巨大な蒸気機関車だった。家の前で停まったその機関車に駆け寄っていく少年。車掌は少年に、北極点行きの急行“ポーラー・エクスプレス”と説明し、乗車するようすすめる。目の前の出来事がまるで信じられず逡巡する少年だったが、機関車が動き出すと、ついに意を決して飛び乗るのだった…。かつて師匠スピルバーグの短編『世にも不思議なアメージング・ストーリー』内にも、夜中に老人を迎えに来た列車におじいちゃんが飛び乗って旅立つファンタジーがあったが、ここではクリスマスイブの夜に、ポーラー・エクスプレスが幼い主人公を迎えに来る。ただこの列車に乗ることが出来る人物はあらかじめ列車側に決められているのがポイントである。少年は妹より少し年をとっているだけに、クリスマスやサンタさんの存在に半信半疑である。彼は文字通り、子供から大人になる境目を生きている。そんな少年が北極点という行き先だけを告げられた列車に飛び乗り、一夜限りの経験を通して成長をするまでを描く。監督であるロバート・ゼメキスはアニメと実写が融合した『ロジャー・ラビット』でも知られているが、今作は初めての本格的なモーションキャプチャを使用した作品である。

 列車の乗客には1人の黒人の少女と、自分の殻に閉じこもった1人の少年の姿がある。他の子供達はクリスマス・イブに浮かれるばかりだが、この2人との出会いが少しずつ少年を変えていく。黒人の少女の切符を探すうちに、列車の屋根伝いにただ乗りする男ホーポーと出会い、彼の手引きにより少年は冒険へと駒を進める。まるでジェット・コースターのような急勾配を下っていく列車は徐々にスピードを上げ、一面氷の張った大地では急回転する。これら一連のアクションはVFXとモーションキャプチャを駆使したアニメならではの味わいを誇る。子供向けヒーローものにありがちな善と悪の構図などどこにもない。ここにあるのは自分の信じる心を貫けるかどうかであり、列車を降りた主人公、黒人少女、無口な少年はクリスマスの裏で暗躍するあるシンジケートの動きを目撃する。さすがに広場の全景はいま観ると古さを感じるものの、父親、車掌、ホーポー、サンタクロースと複雑な役柄を一手に引き受けた声優トム・ハンクスが子供たちを夢と魔法の世界へと導いていく。

 ラストに主人公がサンタクロースにもらった鈴の音は両親には聞こえない。やがて大きくなった妹にも聞こえなくなるのだが、大人になってもこの夢のような一夜を過ごした主人公の耳には鈴の音が確かに聞こえるのである。この他人にはまったく伝わらないが自分の中に確かにある思いは、前作『ホワット・ライズ・ビニース』において精神病を患ったクレア・スペンサー(シェル・ファイファー)の不安が、外部には何の効力も持たなかったことと共通する。あるいは『コンタクト』において確かにヴェガに行ったと脳内の記憶でははっきりと感じ取るエリー・アロウェイ(ジョディ・フォスター)が、裁判所にはまったく信じてもらえないこととも共鳴しあう。時にゼメキス映画の主人公というのは、信じられない体験によって自分の弱点を克服し、前に進もうとする。それは『キャスト・アウェイ』においても『フォレスト・ガンプ』においても『ザ・ウォーク』においても例外ではない。21世紀のゼメキス映画において、「信じる心」の意味はあまりにも重要な意味を持つ。
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