【その姿の消し方】
失踪した夫の行方を辿るドキュメンタリー映画というコンセプトから一転、現実と虚構がものの見事に反転してしまう元祖フェイクドキュ。
黛敏郎の不協和音を多用したスコアが不気味で、人間の存在の曖昧さについて言及している所がさすが巨匠・今村昌平だけはあり先見の明がある。ラストのどんでん返しは賛否両論ありそうだが、人を食っていて凄いと思う。
『赤い殺意』では強姦魔の役だった露口茂がリポーターを務め、奥さんに「これは現実じゃないんですよ〜」と説得する辺りが狂ってる。今村昌平にしてはやや観念的過ぎる嫌いもあるが、長尺を一気見させる吸引力のある力作に仕上がっている。
ゼロ年代に大量生産された松江哲明や岩渕弘樹のフェイクドキュの手法をすでにこの頃から確立している辺りは先鋭的だったのだと思う。重量感のある画作りも今村ならではで内側からジワジワと締め付けられる緊迫感に溢れている。
最後のナレーション→(露口)「これで映画は終わりだ。しかし、現実は終わらない。これからどうする?」(奥さん)「ウ〜ン、わかんない」