椿姫

こわれゆく女の椿姫のレビュー・感想・評価

こわれゆく女(1974年製作の映画)
5.0
一回目は何が主題なのかが解らなかった。4回観ると実に細かにセリフで教えてくれていた。
子どもを預けて二人だけの夜を楽しみにしていた妻だったが夫は緊急事故で徹夜の仕事になってしまう。精神が不安定な妻は何をしでかすか分からないから電話もしづらいと友人たちに言っていた夫だったが、翌朝、夫は10人の仕事仲間を連れて帰宅する。
妻は夫の友人たちをあなたの友人はみんな好きよといって神経をすり減らしてもてなす。友人がオペラのアリアを歌いだすとオペラが好きな妻は嬉しくなって自分も歌おうとするが、夫に座っていろ!と一喝される。座は白け、友人たちは帰ってゆく。

夫の母は妻の入院をヒステリックに勧める。口走った姑の言葉で妻は夫が自分の醜態をすべて話していたことを知る。妻の精神状態はいよいよ悪くなって入院する。いつものように友人たちは心配し力になろうとするが、そのころになると夫は友人たちを人の家庭に口出しするなと拒否する。

6か月後、妻が退院する日、夫は仕事仲間と面識もないその妻たちを60人家に招きいれる。直前に夫が苛立ってメキシコ人めと言い捨てて引いた綱によって崖に転落した友人は参加しない。怒りか友人の招き癖とその妻の苦悩を見抜いたか。夫の母の反対で仕事仲間たちには帰ってもらうが、夫婦の両親と妹たちは残る。
身内だけとはいえ7人の客の前に現れた妻は、二人きりになって二人で寝たいのと正直な事を言う。それでも懸命に話題を探し、入院中の話をしだしてまた夫に怒鳴られる。気候の話など普通の話をしろと。
妻の精神状態は悪くなって、妻は自分の父に助けを求める。両親は事情を知って、夫の態度に怒りをあらわにする。
客に帰ってもらったあと夫は妻を張り倒し、妻は手を自ら切る。心配する子幼い子供たちにキスして寝かしつける妻はこの上なく優しい。子供たちも母が大好きである。

二人は穏やかに楽し気にテーブルを片付け、ベッドを出して寝支度をするところで終わる。
60人もの人を招き入れた家はテーブルを片付けてからベッド出すくらいだから広い家ではないということ。

外国映画では珍しく怒鳴り声の多い映画だった。怒鳴るのは夫であった。
原題は影響下にある一人の女という意味なのだけれど、何の影響下だろう。オブ・ハズバンド。夫の招き癖がなければ。友人たちには妻のいいところを見せようとする。妻もそれに答えようとする。疲れて極限に達して病んでしまう。
二人きりになった時の二人の穏やかさ。
日本には夫婦水入らずという言葉があるけれど、アメリカにはあるのだろうか。家族だけならうまく行くのに他人にみずをさされてダメになることは多くある。

狂気にはオペラであります。二回も狂おしく流れるのはプッチーニの「ボエーム」で、オペラの中でも一番美しい雪の別れの場面です。死の近い恋人の面倒は貧しい俺には荷が重いから別れると不条理な別れを悲しく歌い上げています。そこに友人のカップルの元気な痴話げんかが加わって魂を揺さぶる四重唱になっています。
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