けいと

こわれゆく女のけいとのネタバレレビュー・内容・結末

こわれゆく女(1974年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

演技がひたすら凄まじい映画

狂っているメイベル(ローランズ)の行動に冒頭は引いちゃったけれど、決して悪意はなくて純粋なだけだったのが切なかった。家族を想う気持ちが強すぎるが故に空回りしていく姿は本当に居た堪れない。言動から家族に対する執着が感じられたけれど、それも空虚な生活の中で数少ない依存先の家族に固執してしまったからなのかなと感じた。良い妻、母親でなければならないという強迫観念に苛まれてしまった女性の物語のようにも思える。夫のニック(フォーク)は一見良い夫に見えるけれど、夫婦だけの大切な時間に仕事仲間を連れ込んだり子供を無理やり遊びに連れていったりと自分の都合を押し付ける人間に感じた。妻や家族に自分の求める理想像を演じさせるパーティーは地獄の雰囲気だった。彼なりに不器用に愛しているのは伝わるけれどDV的な側面が強く、現代では感じ方が分かれそうな人物だと思う。ただ、完全に壊れてしまった、自分が壊してしまったメイベルに対して「愛してる」と言うことしかできないシーンは本当に切なくて泣きそうだった。結構長かったけどローランズとフォークの演技が凄すぎてずっと惹きつけられた。子供たちの母に対する思いにも心を動かされた。「自分は馬鹿なのだろうか」と問う母に対して優しい言葉を返したり、怒り狂う父から母を守るために必死に抵抗したりと健気ながら母を想うシーンがとても良かった。父のビールを回し飲みするシーンもすごい好き。ラストで何事もなかったかのような(おそらく)いつもの2人の関係に落ちつくけど、根本的なものはなにも解決していないので観た時はハッピーエンドには思えなかった。それでもラストのメイベルの表情には強かさのようなものを感じたし、これから困難を経ながらも2人は愛し合い続けるのかなと今では思う。2人がたどり着いた境地を理解できるような人間にいつか自分もなりたい。
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