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こわれゆく女のカポERRORのレビュー・感想・評価

こわれゆく女(1974年製作の映画)
4.0
本作は親愛なるフォロワーの”河西さん“よりオススメ頂いた至高の”母ちゃんもの”映画である。
(河西さん、本当にありがとうございます<(_ _)>)
プロフィール欄に記載の通り、普段私は1999年以前の作品はレビューしていないのだが、今回は特別に1974年公開の本作『こわれゆく女』の感想をアップする。

本作の大まかなあらすじは以下の通り。
〖土木作業の現場監督ニックとその妻メイベルは、3人の子供たちと一緒に忙しない毎日を送っていた。
ある日、現場の突発事故でニックがメイベルとの晩餐の約束を守れず帰宅できなかったことをきっかけに、メイベルの精神状態が不安定になり、奇行が目立つようになる。
友人や近隣住民との関係も破綻し始め、ニックはやむ無く妻を精神科病院に入院させることに。
それから半年後、ニックは多くの友人や親族を招き、メイベルの退院を祝おうとしたのだが…。〗

本作、とにかく、メイベル役の主演ジーナ・ローランズの演技が尋常ではない。
全編2時間26分間、興奮状態から抑うつ状態まで、千変万化する彼女の表情・仕草・言動に圧倒され続けた。
魂を揺さぶられる演技とはこのことだ。
個人的には、韓国映画『オアシス』のムン・ソリの演技を目の当たりにした時のインパクトと双璧をなすのではないかと感じた。
ちなみに、ジーナ・ローランズは本作で、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。
アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。
大いに納得である。
余談だが、ジーナ・ローランズ、現在御歳93歳でお元気だ。
夫のニック役は刑事コロンボでお馴染みのピーター・フォーク。
こちらも短気な作業員を熱演していた。
そして、忘れてはならない3人の子供たち。
終始、表情豊かで無邪気でありながら、時に大人たちのヒステリックな怒号や罵声への反応が非常にリアルで驚かされた。
何より、怒鳴られながらも愛情を求める彼らの瞳が実に印象的だった。

さて、本作公開当時の1970年代にメイベルが抱えるような精神疾患が、どれだけ認知されていたか定かではないが、少なくとも今のような医療やサポート体制はなかったであろうし、周囲の理解が乏しかったことは容易に想像出来る。
私自身、鬱病で悩まされていた過去があるため、作中でニックがメイベルの退院祝いパーティーと称して数十人の同僚を家に集めるシーン等は、自分の身に置き換えて考えただけでも鳥肌が立ってしまった。
周囲がどんなに表面的に心配したふりをしてみても、される側はその本音の声が聞こえてしまう(そう思ってしまう)…そういう疾患なのだ。
そうした、表情とは裏腹の声なき声に疎まれ蔑まれる(そう思ってしまう)辛さが、私には痛いほどよく分かる。
だからこそ、最愛の子供たちだけが常に本心で「ママ愛してる」「ママ一緒に寝よう」と抱きついた腕を離さない…そんな姿を見て涙が止まらなかった。
改めて思い知った。
〖母〗はどんなことがあろうとも、子供たちにとって、永遠に唯一無二の〖母〗なのだ。

今一度、この素晴らしい作品を紹介して下さった河西さんに、心からの御礼を申し上げたい。
メイベルのように、抑圧、疾患、ストレスに悩む多くの方々が、穏やかに幸せに暮らせる社会になって欲しい。
そう心から祈っている。
本作『こわれゆく女』に興味を持たれた方は是非御鑑賞頂きたい。
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