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こわれゆく女のTnTのレビュー・感想・評価

こわれゆく女(1974年製作の映画)
3.8
自分の映画の好みというのは、所謂映画であることに対する表現の演出や形式のあるものだ。なのでこの映画を語るのは難しい。

「こわれゆく女」というタイトル通りある一家の妻が"こわれゆく"わけだ。自分はこうした人物にクローズアップした映画に入り込めない。何故かオチであったり画面の構図だったり芸術面とでもいうような面にばかり目がいく。なので普通に人間ドラマが展開されていくのは、何か工夫やよほどなドラマじゃない限り好きになれない。だが、この映画は極限までの人間へ迫る力が尋常ではなかった。

まずはこの映画、顔のドアップばかりだ。常に人物の顔がでかでかと映し出される。まるで目を背けるなといわんばかりに。そしてカメラの位置は常に遠くからズームで撮られているので、人物が動くと背景が乱れるように流れる。だから常に人物の顔が躍動するのを見せつけられるのだ。

そしてその人物たちの演技がまぁ生々しい。というか人間身がある。それは何故かというと、人物の行動の先が読めないからだ。脚本がよいと人物達はいわば物語を結末に運ぶための演技をする。しかし、彼らの演技はまさにその場で突然起きる出来事であり予測不能だ。特に主人公のメイベルは情緒不安定で、つかみどころのなさすぎる人物だ。見ていて腹が立つような時もあれば、今にも泣き出しそうな顔をして観客達をぐっとひきこむ。かと思えば暴れだしたりと予測不能なことこの上ない。なのでこの映画は二時間をこの緊張感の中で耐えなければならないのだ。そしてまた夫のニックも中々の男で妻に引けを取らない人物だ。妻に大声で怒鳴ったり誰かに暴力を振るうのではと思うほど粗暴になったりもする。彼らの子供達も出てくるのだが、この子供達がいったいいつ暴力が振られるのだろうとハラハラしまくりだった。またこの子供達の泣いたり騒ぐ声がメイベルやニックの神経を逆撫でしまいかと、またドキドキするのだった。

しかし、妻メイベルだけがホントにおかしかったのか?ラストになるにつれ私達の見方も間違っていたのでは?となるあの驚き。そもそもこの人物への極端なクローズアップはその人物の内面を読み取るためのものではなく、単に人間の面の皮は分厚くて何を考えてるかなんてわかりっこないのだといっているようなものだ。あれは顔という壁なのだ。そして人間は不可解なのだ。はっきり言えば何も解決はしない。どこまでもこの緊張感が続き、また幸福もまばらに不意に訪れる。とてもリアルを見せつけられた。
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