死者ノック

ヘンリー・フールの死者ノックのレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
3.8
日がな一日を椅子にもたれかかり一日を終える、万年、室内着姿の母。“母の面倒を見る”という役割にアイデンティティファイする家事で手伝いかつ、あばずれ娘の姉。それから猥褻な詩を書き溜める、むっつりスケベなごみ収集人夫の弟、サイモン。

誰しもが何かに苛立っているありふれた家族の前に現れる、いかにもいかがわしい作家風情の男、ヘンリー・フールー。博覧強記、とにかく饒舌、主食はバドワイザー。彼はサイモンに詩の才能を見出した。そしてサイモンに文学業界のイロハを教えるため先導役を買ってで出たことを皮切りに、怪僧ラスプーチンよろしく、徐々にグリム家に影響を持つこととなる。

いかにも人間嫌いで、人を見下した素振り、放浪癖があり、奔放な性生活を送っている。それから肌身離さず携えている未完の自伝は『告白』と呼ばれおり、ヘンリーはどこかジャン=ジャック・ルソーを彷彿とさせる人物である。

あるいは彼のことを中世の演劇に登場する「愚者」に擬えてもよいかもしれない。舞台で道化として振る舞う彼らは「ひとびとが忘れている「真実」を暴露する」(貫成人)。普段は戯け者に扮するヘンリーが時折、至言めいたことをいうのはそのためだし、彼がどこか聖性を帯びてくるような気がするのはそのためではないだろうか。

まあ、MR.ビーンだと思えばよいのではないかな。

映画の見方なんて無限に開かれているわけだし、あれこれ言うつもりはないけれど、ヘンリーが愚者、道化=詐欺師であるように、この人を食ったような映画は、深刻にならずに大いに笑えばよいのではないだろうか。