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ヘンリー・フールのTenKasSのレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
4.5
超傑作とか言ってるが、大概良い映画を見た後はこういうことを常に思う。
劇中の言葉を借りれば
「感情的になってる」
ハル・ハートリーが作った現代版『残菊物語』いや、アメリカ映画なんだから『スタア誕生』というべきか。

サイモン・グリムという清掃員を主軸に話が進むので、見始めて1時間ちょいくらいまで、何故これタイトルがヘンリー・フールなんだ?サイモン・グリムじゃないか。なんて思っていたら、その意味が分かって泣く。ハートリーが寄り添うのはいつだってそっち。
そっちとは、様々な言葉で言い換えられるけどこの作品においては、「弱者敗者ロクデナシ落ちこぼれマイノリティ移民肉体労働者ニンフォマニア鬱病…。」
現代社会批評の恐るべき切れ味に舌を巻いた。移民や弱者がレイシストから弾圧を受け、国粋主義者が跋扈し始める。スマホすら出てきてない時代だが、デジタル社会、効率化がさらに進む時代、文化芸術なんかほとんど見向きされずどのように効率的に大量消費されるかでしか議論されてないような世の中で、ポエムというものがどう生まれ、どう評価され、人々の心を喚起し、行動を起こさせるのかという本来持つべきプロセスと、ポエムの意義。奇妙な顛末を描く。
ポエムという心の叫びだけが、世の中を良くすると信じてやまない。ゴダールの『アワーミュージック』にもこんな話あったような。
結果この映画では、国粋主義者は落選して、DVは止まって、レイシストは死に、不運な男はなんとか助かる。芸術というものに対する盛んな議論も始まる。芸術の役割は同意され讃えられることじゃなく、議論を呼ぶこと。
そしてヘンリーフールが自死することなく助かる結末。
この結末は残菊物語ともスタア誕生とも違う。映画なのだから、助かったっていいじゃないか。物凄くご都合主義だって構わないというラストの畳み掛け。ハートリーはもしやタランティーノ並みに映画パワーを信じているのでは…?
ただサイモンのママが死んじまったところを見ると、それなりに現実的な目線。サイモンのママがふとサティを弾くシーンだけで、彼女が何者で、何故心を病んでしまったか分かるのは見事だった。

2019/12/30 追記:三部作全てみて、三部作になった意味を踏まえてもこの映画を信じたい。
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