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ヘンリー・フールのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ヘンリー・フール(1997年製作の映画)
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ごみ収集作業員のサイモンが密かに書き溜めた詩に、刑務所を出たヘンリーが惹かれ、サイモンの姉は危険な男ヘンリーに惹かれる。サイモンの才能を絶賛しつつ、自分の書く「告白」を大傑作だと嘯くヘンリーは自意識過剰なトラブルメイカー。才能ある者は罪を犯しても関係ない自由人だと標榜する、この手のタイプは少なくないし、「物議を醸してなんぼ」の自己破滅型がもてはやされた時代だったと思う。けど、所詮は小さく哀れな負け犬の遠吠え。
一方、母姉と実家暮らしで弱々しいサイモンは、メガネの奥の物言わぬ目が怖い。当時ノートからネットへ、街角から社会へ溢れ出る行き場のない欲望。ゴミ溜めの中から生まれた詩。誰の言葉かは重要じゃない。詩そのものは見せないまま、ただそれを読んだ反応だけが一人歩きする。今観ると、詩人といっても『パターソン』とは正反対な映画だ。
やがて対照的に道を分かつサイモンとヘンリー。世界は不公平で醜いまま変わらないけれど、ここでしか生きられない不器用な人たち。大空に背を向け走り出すラストが、『汚れた血』のラストにも似て。90年代インディ映画や創作者という愚か者の負け犬の自画像みたいに思えた。冗長だけど、ハル・ハートリーはどれも人の動きやダイアローグや編集に一定のリズム感がある。
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