菫

英国王のスピーチの菫のレビュー・感想・評価

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
4.5

ゼミにて👑

アルバートとライオネルローグの絆にただ感動。ローグの吃音治療は言語的な訓練だけでなく、精神療法も非常に重要な役割を果たす。ローグはアルバートとあえて対等な関係を築くことで、気の知れた友人として徐々に打ち解け、悩めるアルバートの心の声を聞き出した。セラピストってコミュニケーションの達人なんだなと思ったし、大胆不敵なローグの性格も、素早い治癒に貢献した大きな要因の一つだと感じた。


スピーチの後、ローグがアルバートに向かって"Your Majesty"と呼びかけるところが間違いなく一番のパンチライン。敬称で呼ぶことをあれだけ拒んだローグから、初めて形式的な敬意の表明を得たこと、それは彼から正式に国王ジョージ6世として認められたことを意味する。誇りと自信に満ちた表情で、未来のエリザベス女王である長女と挨拶を交わすシーンには胸打たれたなあ…


「君臨すれども統治せず」という言葉どおり、英国王の役目は政治そのものでなく、国の象徴でいること。そのため、人柄のよさをもって国民から愛されるということが最優先事項であるような気がする。スキル云々よりもまずは評判が重要なのではないかと。とはいえ同時に"権威の表出"も求められるわけで。特に戦禍においては、"頼もしい国王の御言葉"をみなが期待する。

兄の暴走により、思いがけずそれを担当することになったのはスピーチの苦手なアルバートという皮肉。さらに敵国ドイツには、演説を武器とするヒトラーの存在があった。確か作品中では触れられていなかったけれども、兄エドワードとその妻ウォリスは、(自国から忌み嫌われた反動もあり)自分たちを温かく歓迎してくれたドイツを気に入り、その結果ナチスに傾倒していたという話がある。


ジョージ6世にとって、吃音を克服し、戦禍の国王としての任務を果たすことは、兄に対する劣等感を打ち破ることに繋がる行為であったと感じる。敵国の独裁者に熱中するような、そんなどうしようもない兄が弟の原動力となったというわけだ…… ある意味ドラマチックなストーリー。

胸が熱くなる話の中で、クスッと笑えるコミカルなシーンもあったりして、とってもバランスの良い作品でした。あとやっぱり私はノンフィクション作品定番の、エンドクレジット前のテロップが大好き。
菫