寝木裕和

数に溺れての寝木裕和のレビュー・感想・評価

数に溺れて(1988年製作の映画)
-
常々、夢というものは面白いものだと思う。

根拠が無く、辻褄も合わない、取り止めのないフラッシュバックの連続のようなものなのに、明確にその人の深層心理だったり心の奥底に潜む闇だったり、ある意味その人の真実の姿が、そこにはある。

ピーター・グリーナウェイのこの作品を観ていて、そんなことを思ってしまった。

これは、子どもが夜な夜な見る、断末魔のような夢のかけらを集めたものだ。

数というものに偏執狂なまでに囚われてしまった少年スマット。
それに感化されたのか、それぞれの連れ合いを、数を数えながら溺死させていく三人のシシーたち。
思えば、昆虫をなんの罪悪感もないまま殺していくような残酷性が子どもにはあって、そんな深層心理は大人になってからも奥底に隠れているのかもしれない… などと、こんなところからもそんな「悪夢」の表出が見てとれる。

しかしこんなにも深いダークさと、鋭い美的感覚、そして皮肉の効いたユーモアを混ぜこぜにして、子どもの頃の悪夢を具現化することのできる映画作家はまことに稀有であろう。

林檎の木の下の浴槽… 、果物にたかる昆虫… 、食べすぎたマッシュルーム… 、羊たちと潮の満ち引き… 、ハサミで割礼… 、牛二頭の死骸の上での愛撫… 、レモンスカッシュと砂糖まみれのタイプライター… 、、
寝木裕和

寝木裕和