おむぼ

数に溺れてのおむぼのレビュー・感想・評価

数に溺れて(1988年製作の映画)
4.1
 伝えたい要素は1つ前に見た監督前々作の『ZOO』から一貫しているけれども、記号の執着に主題のスポットが当てられたり、登場人物同士の感情的な話が読み取りやすく彼らに愛着が持てるように描かれたり、ブラックコメディ映画として仕上がっていた。
『ZOO』が実験アングラ映像の枠内でのポップなエンタメだとしたら、その逆だと思う。

 劇中に数字が度々出てきて、見ていればその仕組みを徐々に掴めるし、最後には絶対に察せるほどわかりやすい示唆だが、登場人物は全く気づけない。
それだけで記号とデータに執着してしまう魅力と危うさは普遍的で気づきにくいものと説明できている映画の実験がおもしろい。

 ドラマとしても、3世代に渡って同じ名前の女に同じ手段で殺されるのは、夫の役割をしていて性欲を持っている男という記号で、信頼ができなくなったら死ぬ運命にある。
だからこそ、割礼しているから性欲が無くて無害という記号に基づき信頼できるだろうという個人へのデータ=偏見が顕になり、破滅へ向かう。

 偏見は習慣を形成して、敵と味方を区別できるようになるから安心するが、甘えきって何も考えないでいると、他人をいたずらに傷つけて人間関係の適切な距離感を狂わせて破滅へと向かわせる。
わかりやすく真理が描かれていると思った。

 終盤、星を数えた少女のナンセンスな死が、少年にその遺品を使った死を選ばせるやるせない画から、最後に至るまでのじわじわと追い詰められる長尺の恐ろしさにしっかり満足できた。

 そして、最後のカットは何もかも完全に終わっていて悲しいのに、直感的にはきれいで気持ち良く決まっているのは、きっともうすでに数に溺れているからだと思った。
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