レインウォッチャー

ゲート・トゥ・ヘヴンのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ゲート・トゥ・ヘヴン(2003年製作の映画)
3.5
ドイツはフランクフルト空港の裏側で、ふたりは出会った。ロシアから密入国した青年アレクセイと、祖国インドに幼い息子を残す清掃係のニーシャ。
周りを取り巻く、それぞれ「訳アリ」でマイノリティな面々の助けを得ながら、彼らの恋は浮き上がる。

『TUVALU』『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』等々、ファイト・ヘルマー監督は外から隔たった限定的な空間に魔法を閉じ込めて物語を作る。今作においては空港がそれにあたるわけだ。
それはまるでひとつの都市か国のように、搾取する者とされる者、何重かに渡る上下の構造や独自の秩序が呼吸している。

まさしく天に近い門、最も開かれた場所であるはずの空港が隔たっている、とは何ともアイロニカル。
見上げれば遥か遠くへ飛び立つ飛行機、振り返れば煌々と輝く都会のビル群がすぐそこにある。しかしそれは、ある人々にとっては書き割りも同じなのだ。

アレクセイもニーシャも、境遇は違えど「どこにも行けない」という点で共通しているといえる。ふたりは既に山谷を経験し、現実的な問題に直面する大人で、少年少女みたいなボーイミーツガールには普通ならなり得ないはずのところ、この環境と共感のスパークが、ひととき彼らを星座の一部にしてくれる。
アレクセイはパイロットに、ニーシャはCAに憧れるけれど、夢は夢。しかし、だからこそ彼らの逢瀬(夜、無人旅客機でのデート!)はこんなにも甘やかだ。

物語は倫理観を度外視してるところもあり(※1)、あくまでもファンタジーの域内。それを示すようにか、空の色は桃や葡萄を溶かしたように暮れている。
2人の人生は果たして国境を飛び越えられるのか?ちょっとハラハラ、まあまあ気楽に見守りつつ、今夜は空飛ぶ夢を見たいところ。

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※1:今作に限らず、支配者層の裏をかく、とりあえず一発かます、みたいなパンク精神がベースにあるのもヘルマー作品の特徴だと思う。