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エグザイル/絆のnetfilmsのレビュー・感想・評価

エグザイル/絆(2006年製作の映画)
4.1
 かつて香港の組織にいたウー(ニック・チョン)はボスのフェイ(サイモン・ヤム)を狙撃し、逃亡していた。逃亡生活の中、家庭をもったウーは、安らぎの場を求めて妻子と共にマカオに住んでいる。そんな中、ブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュー)が、ウーの殺害をフェイから命じられてウーの家にやってくる。一方、タイ(フランシス・ン)とキャット(ロイ・チョン)は、ウーを守るためにやってきた。5人は一緒に育った間柄。強い絆で結ばれていたが、今は立場を違えていた。ウーが部屋に入ると、続いてタイとブレイズも家の中へ。3人は2階に上がり、同時に撃ち合うが、彼らはウーの赤ん坊の泣き声を合図のように銃を下ろす。冒頭、ドアをノックするけたたましい音と共に、中から出た女に「ウーはどこだ?」と聞く明らかに堅気ではない男たちの姿。チェン・シウキョンお得意のハイ・アングル・ショットと2階からの構図がまるで西部劇のような緊迫感を醸し出す。いきなり『レザボア・ドッグス』のラスト・シーンのような三すくみの構図で幕を開ける今作は、これまでのジョニー・トー作品の中でも1,2を争う様式美に貫かれたアクション映画である。ブレイズも心の中ではウーを殺したくたいのだが、闇社会に暮らす人間にとって、組織の親分の命令は何よりも重い。

 ウーを助けた時点で彼ら5人は追う立場から追われる立場になり、当然これまでと同じ街では暮らせない。妻子に金を遺したいというウーのため、5人は仲介屋に出向き、仕事を斡旋してもらう。選んだのは、マカオのボス、キョン(ラム・カートン)の殺害。5人はキョンを呼び出したレストランに向かうが、その場にキョンと手を組もうと企んでいたフェイが現れる。ウーがまだ生きていることを知り激昂するフェイがブレイズの胸に銃弾を撃ち込み、熾烈な銃撃戦が幕を開ける。ジリジリとした心理戦による息の詰まる攻防の後、誰かが引き金を引いた瞬間から、激しい銃撃戦となる。ボスに先に銃口を向けられれば楽なのだろうが、ブレイズはどうしても組織を裏切ることが出来ない。そのことが彼らのアクションを後手に回してしまい、結局はウーを死なせることになる。ジョニー・トーの香港ノワールにおいては、女性はあまり重要な役割を担ってこなかったが、今作におけるウーの妻ジョシー・ホーは悲劇のヒロインであり、自分で引き金を引く度胸の強い女である。彼ら5人と妻は一つのテーブルで食事をすることで和解したかに見えたが、ウーの死に逆上したジョシー・ホーが彼ら4人に銃口を向ける。女の行動は、裏社会に生きる男たち以上に残酷で容赦がない。鉄の女のごときその形相は、ウーの復讐に燃えている。

 中盤以降、4人が荒れた山地を彷徨い、その後金塊を強奪するあたりはやや唐突に見えたがその夜、焚火を囲みながらそれぞれの夢を語り合う場面が素晴らしい。だが破滅の瞬間はひたひたと迫り、天国から地獄へと落とされる恐ろしい事実を耳にする。復讐のため4人の行方を捜しているウーの妻と子がジェフのホテルにいるが、今夜12時までに来なければ妻子の命はない。4人にとっては銃口を向けて発砲してきた女であるが、何よりもウーの最愛の妻と子供を助けるためにホテルに乗り込んだ4人は、バーの酒をらっぱ飲みし、大はしゃぎする。クライマックスの4人の乱痴気騒ぎは、人生を謳歌した男たちの最後の馬鹿騒ぎである。ウーを殺すことが出来ずに、生かしてしまったことで組織に追われる身となった4人が、自分たちの最後の生き様を主張してみせる。まるでタランティーノの『ジャンゴ』のクライマックスのような洋館における銃撃戦のカタルシスは圧巻である。ラストに出て来た証明写真は、ジョニー・トーらしい友情に貫かれた様式美溢れた名場面である。
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