茜

心中天網島の茜のレビュー・感想・評価

心中天網島(1969年製作の映画)
4.2
好きな人と死にたいとか好きな人に殺されたいとか微塵も思わないので正直ストーリー自体に響くものは何もないんだけど、一つの映画として心を動かされる。
劇中に堂々と登場する大勢の黒子達や立体感を感じさせる撮影手法など、自宅のPCで映画を観ているはずが、まるで厳かな劇場で舞台を鑑賞しているような感覚。
これは是非映画館のスクリーンで観てみたい一作。

黒子達はまさに人形浄瑠璃を体現した存在で、どんどん深みに嵌っていく男女の運命を操り動かす。
彼らは天井桟敷の方々が演じており、寺山修司好きの私は歓喜。興味津々で終始目が離せなかった。
一人二役を演じた志麻さんも勿論素晴らしいのだけど、後半に小春を想って泣きじゃくったり慌てふためいたりする冶兵衛が私には本当に情けなく見えて、そこに強く心打たれたので中村吉右衛門の演技力に只々感服した。

先の二人を明確に暗示している墓場での交わり。
そこからラスト迄の激情的な流れが美しくもあり、どこか客観的で呆気なさもある。
「別に死ななくてもいいやん」なんて心の中は冷めているのに、鳥居での首吊りに不思議と目頭が熱くなったし、ラストカットは脳裏にこびりつくほど美しく見えた。
こういうのが「映画」の持つ力なんだろうなぁって思う。
しっかりと心に爪痕を残してくれる作品。
茜