イチロヲ

心中天網島のイチロヲのレビュー・感想・評価

心中天網島(1969年製作の映画)
4.0
女郎(岩下志麻)との恋愛に没入している妻子持ちの青年(中村吉右衛門)が、近親者を混乱に陥れながら、破綻の一途を辿っていく。近松門左衛門の人形浄瑠璃を映像化している、ATG謹製の時代劇映画。タイトルは「てんのあみじま」と読む。

いわゆる「心中もの」に分類される古典作品。舞台操演と劇映画をミックスさせるという実験が施されており、映像の中に映り込んでいる黒子(待機中も映り込んでいる)が、映像内の演出と演者の所作を手伝っていく。

女郎役と妻役を岩下志麻が一人二役で熱演。女郎は世間から白眼視される女郎視点の葛藤をもち、妻は夫を立てようとする貞淑な妻視点の葛藤をもっている。この合わせ鏡がアンニュイかつリリカルに表現されており、女性視点の哀感が伝わってくる。

主人公が逸脱した恋路を歩ませようとすると、他の場所でタガが外れてしまい、因果応報が動き出す。性衝動の波及力をもとにした乱反射現象が克明に描かれているため、「ある意味、情死はハッピーエンドなのでは?」という倒錯心理が掻き立てられる。
イチロヲ

イチロヲ