ちろる

心中天網島のちろるのレビュー・感想・評価

心中天網島(1969年製作の映画)
4.5
劇中に黒子が登場したり、大きな字や浮世絵が描かれた壁や床のセットを大胆に起用するなどアバンギャルドな演出で最初から最後まで目が釘付け。
ATGの傑作の一つとも言われているこちらの作品は、間違いなく篠田監督にとっての代表作と言っていい。
そんな映像体験をさせてもらえる、映画ファン必見の本作を更には盛り上げたのは、惹きつける岩下志麻さんの遊女小春と妻おさんの一人二役の演技。
小春は人形のように白く塗った顔がまるで本物の文楽人形のように見え、不思議な感覚のままにラストの墓地での心中シーンに向かう。
どんな海外の激しい艶シーンもこの岩下志麻さんのこの、ラストの色気に超えるものは無いのではないでしょうか。
(「美しさと哀しみと」の八千草さんのも相当色っぽかったから篠田監督って女の艶を出すのに長けてる気がします)

舞台のように、限られた範囲で最大限の様式美を見せる、人形浄瑠璃を生身の人間でやってのける、そのとんでもない実験的発想と、それを見事な作品に仕上げてしまう篠田✖️岩下コンビの情熱が胸を熱くしてくれる。

この作品では「愛」を純粋な形ではなく、義理や世間体の中で曖昧になっていく様子や、主人公の愚かさも含めて生々しく描き、途中はなんとも言えないバツの悪さを引きずるからこそ、圧巻のラスト。
白黒のコントラストの素晴らしさは照明技術によるものでしょうか?
美術、映像は勿論のこと、日本的でありながら独創的な音楽も含めてあぁ、とんでもない体験でした。
ちろる

ちろる