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すべてが狂ってる(1960年製作の映画)
3.9
 開巻早々の暗転したフレームの中。けたたましい爆撃音を上げながら、日本兵は森の中をうろうろと右往左往する。やがて退路を断たれた部隊長は意を決して最前線に飛び出すが、あえなく爆撃に散る。あれから15年、戦争映画を観ていた杉田次郎(川地民夫)はうだるような暑さの中、けだるい表情を浮かべながら映画館から出て来る。今日も盛り場の暑さにうだる通りを、ハイティーンの不良グループがのし歩く。グループの一人である杉田次郎は、母親・昌代(奈良岡朋子)に女手一つで育てられた。これからいつもたむろする盛り場へ繰り出そうと誘われる次郎だったが、彼は一人菓子折りを持って家に帰った。母親は今日が誕生日だった。だが母の昌代は2人っきりの夕食の場に南原(芦田伸介)という男を誘っていた。そんな母の姿にハイティーンの次郎は今日も反発する。家をとびだした彼はカップルを襲って金をまきあげ、暴れた。彼等のグループの中には、次郎を愛している谷敏美(禰津良子)がいた。しかし次郎は彼女の気持ちにも応える気がなかった。

 次郎のあてどない怒りはどこにぶつかるとも暴発するともわからないまま、クライマックスまでいらぬ暴走を繰り返す。彼のナイーブな心を痛めつけて止まないのは、尊敬すべき「父の不在」であり、その背景にある無意識下の意識とは、まだ復興ままならぬ戦後世代から見た戦争の総括に他ならない。これから食い扶持を見つけるべき青春真っ只中の青年は父が結果として死ぬこととなった先の大戦を憎み、どうにもならない憤りを兵器を製造する会社に従事する南原へと向ける。母親からの深い愛情を受けずに育ったという点では前作『くたばれ愚連隊』と同じ主題だとも言えるが、戦争の爪痕が癒えていないのは何も子供たちだけでなく、一見裕福で万能感を抱えた南原も彼に縋るように生きて来た母親の昌代も、行きつけの呑み屋の女主人までもが先の戦争の渦に巻き込まれ、過ごすべき自由な青春時代を身勝手に奪われる。戦前世代は戦後世代をただひたすらに羨ましがり、彼らに手を差し伸べようとすればするほど、彼らは遠ざかって行く。終始あてどない怒りを抱えた次郎と同様に、ここでは望まれぬ生を抱え込んだ悦子(中川姿子)がうだるような暑さの中でもがき苦しむ。

 Coleman HawkinsのタイポグラフィにCharlie Parkerの写真を差し込むなどJAZZファンにはあり得ぬ凡ミスも見られるものの、怒りを抱えながらハンドルを握った人生の主役はここでもうっかり道を踏み外す。
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