Ricola

すべてが狂ってるのRicolaのレビュー・感想・評価

すべてが狂ってる(1960年製作の映画)
3.6
爆撃シーンから始まるこの作品。
そういった戦争映画のワンシーンの次には、映画館の前でたむろする若者たちの様子が軽快なジャズのなかで映し出される。
戦後のトラウマから逃れられない大人たちと、そんなどん底の暗闇の日本に嫌気が差している若者たちが重ねて描かれている。

戦後の混沌とした世は、戦争が終わって10年以上経ってもあまり変わらない。
混沌としたままであるのはもちろん、さらに若者たちの鬱憤は強まっている一方である。


刹那的に生き、自滅へと向かっていく若者たちの心の底には常に怒りがふつふつと沸いているようだ。
特に主人公の怒りがよく表出される。彼はただ表情にその怒りを表すだけではなく、怒りが行動にしっかり示されているのだ。例えば彼を慕う女友達を無下に扱うというだけではない。
バケツを蹴ったり風船をバンバン割ったり、しまいには盗んだ車を走らせ暴走はエスカレートしていく。
しかしその怒りの根底には、悲しみや絶望があるのだ。

母の恋人とのわだかまりが、主人公を苛立たせる。
彼は若者だけの世界に入り込んでくる。
彼がそうするのは、恋人の息子を理解しようと、またその彼から信頼を得ようと向き合おうとするためなのだ。
それでも青年は理屈なんて知っちゃいないと、彼および時代と社会への怒りをぶつけ続けて現実に目を向けない。

足元だけ、もしくは顔のクロースアップ。
人物の感情をそのまま浮き彫りにさせるのに効果的である。
主人公の憎しみや怒りに満ちた顔、彼女の必死な顔。交互に映るその「違う」顔が、作品を観ている我々の不安感を煽る。
制御しきれない感情に振り回される彼らを誰も止めることができない。

若者たちが狂っているのか?
いや、狂っているのは彼らではなく、この時代そのものなのだ。
Ricola

Ricola