Mikiyoshi1986

すべてが狂ってるのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

すべてが狂ってる(1960年製作の映画)
4.3
本日2月13日は鈴木清順監督の一周忌。
そして奇しくも昨日、清順作品を始め、日活や東映でその個性的キャラを発揮した俳優・川地民夫さんの訃報が伝えられました。
改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。

本作『すべてが狂ってる』は友人・石原裕次郎の紹介で日活デビューを果たした3年目の川地民夫が、若手ながらも野心的な作品を撮っていた清順監督の元で主演した青春群像劇であります。

60年3月に『大人は判ってくれない』と『勝手にしやがれ』が日本で公開され、
押し寄せたヌーヴェルヴァーグの衝撃にいち早く反応した清順監督は、その2作品をマッシュアップさせたかのような本作『すべてが狂ってる』を同年10月に公開させています。

戦争を知らない若者の反抗的で背徳的で享楽的な一面を取り上げ、一見して戦争経験者の世代からは理解不能である新世代の風俗に迫った清順流ヌーヴェルヴァーグ。
しかし本作の肝は、そんな若者を奇異の対象として通俗的なセンセーショナル作品にでっち上げるのではなく、
鬱屈とした彼らの実情と内に秘めたる人間的良心、行き詰まり非行に走る理由、苛立ち、苦悩、葛藤にもしっかり寄り添っている点にあります。

その代弁者的主人公・次郎を川地民夫が演じ、寡婦の母親とその情夫である会社常務の関係に苛立つ不良高校生の心を情感たっぷりに魅せてくれます。

当時新人の吉永小百合が端役ながらも絶世の美貌を振り撒き、ロックンロール期の坂本九も当時19歳ながら軽快にロカビリーソングを歌い上げているのも見所のひとつ。

モダンジャズに載せて市街を乗り回す盗難車、愛する母の気持ちを理解できず反抗しまくる少年、海沿いの疾走、ダイナミックなカメラワーク等、ヌーヴェルヴァーグのアイコンをなぞりながらも日本の現代社会に切り込んだ異色作。

狂っているのは戦後育ちの彼らか、それとも戦前育ちの大人たちが作り上げた現代なのかを痛烈に叩きつけた清順監督初期の傑作です。
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