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グラン・トリノのunepistのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
3.0
偏屈モノで家族からも疎まれている退役軍人のコワルスキー氏が、隣家のモン族の家族との交流を通して、朝鮮戦争での悲惨な体験を通して歪んでしまった「生と死」の価値観に改めて向き合っていく姿を描いたヒューマンドラマ。
クリント・イーストウッドは、どの作品においても「クリント・イーストウッド役」として出演しているのだと私は思っていますが、まさにこの作品は79歳の彼がありのままの姿を投影して、人生最後の主演作品(と宣言しつつも、その後にも何作か主演していますが)として挑んだ作品。体にガタは来ていて派手な立ち回りもできないが、眼光は鋭く、悪舌で、人生経験豊富な古き良き時代のアメリカ市民であるコワルスキー氏に、どうしてもイーストウッドのキャリアが重なって見えてしまいます。
序盤のコワルスキー氏の白人至上主義にも見える言動に面食らう方もいるでしょう。でもこれはポリコレの虚像を取り払った時に見えてくる、アメリカ中西部から失われた過去の栄光を知る白人労働者の現実の姿なのかもしれません。そして、そんな悪舌こそが大人の話し方とされていた往時を引きずる男の、時代に取り残された姿でもあるのでしょう。そんな彼が、アジア人種であるモン族と打ち解けていく動機としては、米国のベトナム戦争撤退によって母国を追われた彼らへの、朝鮮戦争での体験に基づいた歪んだ共感、あるいは罪悪感があるのかもしれません。
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