こつぶライダー

グラン・トリノのこつぶライダーのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
5.0
映画『グラン・トリノ』とは、一言で言えば"レガシー"です。

数多くあるイーストウッド作品で、一番整合性の取れた傑作だと思います。

若い頃、あれだけドンパチな作品ばかり出ていた荒くれ者が、隠居したときに出した内容と考えると、かなりグッと来るものがありますよね。


映画テーマには"人種差別"だとか、それを超えた"友情"だとか、様々な要素が盛り込まれています。

その中でも私が1番強く感じたのは、"未来ある若者へのレガシー"、つまり、これからのアメリカについてでした。

人種のるつぼとし、移民で成り立っているアメリカ合衆国という国。
多数の民族が暮らしていて、人種差別という社会問題がいかなる時代でもクローズアップされていますよね。
差別が悪いことなんて小学生でもわかるのに、なぜ起きてしまうのか?

色んな解決策が投じられようと、抜本的な解決には繋がっていない、、、悲しい現状です。


イーストウッドは、The Americanな頑固じいさんの晩年の物語に平和への願いを込めたんだと思います。

血を分けた家族、兄弟、つまりファミリーは、確かに大切な存在であることは間違いない。
昔に『ゴッドファーザー』という映画があったように、家族ほど価値ある存在はなかった。
広げて考えてみると、白人には白人が、黒人には黒人が、同士として大事なんだと。

しかし、この作品で描くのは親しき友人の存在である。
いくら家族であろうと、自分のことを理解しようとせず除け者扱いする人らには距離を感じる。
逆に、隣のモン族の家族には、文化や容姿も全て違うはずなのに、親切心があって好きになってくる。

そんな彼らを守る老人の姿を描くことで、人種の垣根を越えて人を愛する意味を問いかけた作品でした。

私が凄いと思うのは、とにかく無駄なシーンやセリフがなかったこと。
話は難しくないし、起承転結でまとめたら数行で済みそうなのに、それでは語り尽くせないくらいに濃いドラマを作れていたと思う。
所々、ホッコリさせられました。

何より、彼が大事にしていたグラン・トリノ(国産の名車)を、目をかけていた隣に住む外国人に譲り渡したのは感動的。
やはり優しさや強さというのは、自分の生き様で見せなくてはいけない。イーストウッドは死に様でも見せた。凄い男です。


ちなみに、これが引退作と囁かれる中で、次々と監督したり出演したりしてるイーストウッドに驚き。
もう、いつかゾンビ映画でも作って自分がゾンビ役にでもなって欲しいわ(笑)
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