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昨日と明日の間の一のレビュー・感想・評価

昨日と明日の間(1954年製作の映画)
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川島雄三、松竹時代最後の作品。起業家・鶴田浩二、よろめき人妻・月丘夢路、鶴田に対して執拗に恋する莫連女・淡島千景の三角関係がストーリーの軸で、筋を見れば普通のメロドラマなんだが、しかしスクリーン内スクリーンを用いた奇怪なアバンタイトル&エンディングに象徴される川島の演出やドライなテンポ感、そして何よりも淡島の素晴らしさにより傑作。ホテルの部屋で鶴田に愛の告白をするシーンにおいてオーバーな3段階ポン寄りで迫ってくる切実な表情と台詞の応酬の合間にも途切れない滑らかな身のこなし、オーバーオール姿で恋敵たる月丘を何度もビンタするラディカルさ、そしてラスト近く会社の開業前夜パーティーの場で一人披露するダンスと鶴田に対して別れの仁義を切るその目に浮かぶ涙、本作の淡島はどこをとっても素晴らしい。であるから、エンディングにおいて淡島には特別な地位が与えられる。鶴田と月丘の成就しない恋という本作のメロドラマ的顛末(映画内現実)を、それが映写されるスクリーンの裏側から見つめる淡島の姿で映画は終わる(「終」の文字もご丁寧に反転した状態で浮かび上がる)。混乱をきたすメタなエンディングだが、つまり『昨日と明日の間』というドラマの外側で今日これからを生きることを淡島だけが許されているのだ。川島の奇抜な演出が本作を淡島の代表作に推し上げている。その演出だが、船内から崖の上への突飛なシーン展開や、ガラス越しの仰角ショット、スクリーンの裏側など、悉く鈴木清順っぽい。
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