horahuki

ラブド・ワンズのhorahukiのレビュー・感想・評価

ラブド・ワンズ(2009年製作の映画)
3.8
「死」よりも悪い運命への恐怖

2月は女性殺人鬼①

イカれた女子が意中のイケメンをパパに拉致して貰って監禁。これで家族とイケメン、自分たちだけのプロムが開けるよ!パパ大好き♫って感じのサイコホラー。

主人公は自分の運転のせいで大好きなパパを死なせてしまったイケメンくん。やっと過去から立ち直りかけていたところで同じ学校のイカれた女子に監禁されるという踏んだり蹴ったり具合が可哀想…。

しかもこのイカれ女子の拷問がエゲツなくてですね。物理的・身体的にではなく、文字通り心を殺していく過程にゾクゾク。声を奪い羞恥を強制することで優位を確立してからは、イケメンを子どものオモチャのように遊び続ける。そしてジャケでイカれ女子が持ってるドリルの向けられる先が…😱身体的欠損や痛覚に訴えかける拷問とは違い、「決して戻れない場所」へと連れて行かれてしまう恐怖を植え付けるのが素晴らしい。

本作は「過去からの脱却」の過程を描いた作品で、監禁という場で両極端な未来の可能性を提示する。どちらの選択肢にしても「過去からの脱却」という面で変わりはないのだけど、一方は「決して戻れない場所」という超ネガティブなもので屈服を意味する絶望。それは作中で地下部屋として描かれる心の牢獄。そしてもう一方の選択肢である「未来」を自身の罪の反面教師的反復によって守り、その後ろから迫り来る「過去」を轢き殺すのも面白い。

この「過去」で複数キャラを繋ぎ合わせていて、過去に対する対応の差も描きつつ、「登ろう」とした先に待つ試練へと投げ出されるイケメンと登ろうとはせずに内に内に閉じこもった彼女の差が「未来」を手にするかどうかの結果を大きく左右するのもしっかりしてるなと。そして『サマーオブ84』のような「隣人が殺人鬼」的身近さが付き纏う「闇」との距離感までも語っているのも良い。

冒頭から映像センスが冴え渡っていて、主観映像と客観映像の綺麗な使い分けや、音の途切れ方、余計なものを中抜きしていく大胆な編集等々に留まらず、意味深なロッククライミングやアブノーマルな内面や家族関係を照らし出していく主観カメラがキャラクターを肉付けしていく。そして、怪物でありながら、それ以上に未熟な少女であることを「無垢な狂気」として表現した俳優さんが素晴らしい。面白かった!
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