イホウジン

ダウン・バイ・ローのイホウジンのレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
3.8
人生の脱スペクタクル化?

「刑務所からの脱走」というと、普通なら劇的で情動的なストーリーになりそうだが、この映画ではそういったものには発展しない。それどころか、まるで日常生活かのように登場人物が刑務所で過ごし、脱獄し、逃亡するのである。それだけなら古今東西のコメディ映画にもありえる話なのかもしれないが、重要なのは、地下道を使った脱獄や警察の追跡など、“脱獄もの”をそれ自体として成立させる最低限の文法は守っているという点だ。つまり今作が反発しているのは、刑務所を使った映画というジャンルではなく、それを壮観に描くハリウッド的な世界観であると考える方が良いだろう。
これによって生じる、どこか間の抜けた緩い感じの登場人物やストーリーには、単なる喜怒哀楽に細分化されない、もっと曖昧な人間そのものの複雑な在り方を劇中に宿すことにつながる。例えば今作のラストの映像はその典型であろう。日常と非日常の境が曖昧になるこの映画の世界で、彼らの新しい日常がここに始まるのである。
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