佐藤克巳

浮草物語の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

浮草物語(1934年製作の映画)
5.0
クリアな画質で再見して認識が激変。坂本武の喜八物と言っても前作「出来ごころ」と全く風情の違う、河原乞食ドサ回一座の集団劇と、坂本の愛人飯田蝶子、その子三井秀男との人情劇が見事融合した小津安二郎監督のサイレント映画集大成の傑作。実はオリジナルはサウンド版らしいが、その型式でまた観たい作品である。リメイク作「浮草」も名作だが、本作は寧ろ「小早川家の秋」に親近性があり、楽天的な雰囲気が醸し出される前半の取り分け座長坂本の芝居に、出番を間違える冨坊爆弾小僧の犬のぬいぐるみ姿は一服の清涼剤となり、女芸人八雲理恵子、坪内美子の美しさは、京マチ子、若尾文子を凌ぐ。後半八雲が坪内に三井の誘惑を命じ坂本とのいざこざが生じ、雨模様から興行の不振も相俟って一座解散、座員は散り散り。坂本は、駅で待つ八雲と仲が戻り、また一勝負を賭け汽車で上諏訪に旅立った。
佐藤克巳

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