半兵衛

浮草物語の半兵衛のレビュー・感想・評価

浮草物語(1934年製作の映画)
4.0
リメイク版である『浮草』は小津スタイルと大映スタッフの技術が合わさった傑作であったが、馴染みのスタッフ&キャストによる本作も画としては地味ながらも旅芸人の侘しさが全編に漂う好編に仕上がっている。

主役の座長はリメイク版の中村鴈治郎による達者な演技にくらべると少し物足りないけれど、中年としての哀愁や疲弊感を漂わせた坂本武の存在感もそれなりに味わい深かった。そして彼の愛人を演じる八雲恵美子の色気がロマンポルノの女優並に濃い。

地面を見せないローアングル(吉村公三郎監督いわく撮影所の地面が汚いためそれを撮さないようにすべく生まれた技法だとか)が随所に登場しているが、まだそれが徹底されていない印象を受ける。そしてセットの空はやはり映してなかった。

終盤の雨のなかでの大喧嘩は激しさはないものの雨で分断された二人の構図が決まっていて一幅の絵画のよう、ラストの仲直りも無駄なく最小の動作で彼らの感情の流れを表現して小津の作風が完成されつつあることを感じさせた。

それにしても三十代にしてこれほど抑制された作品を作ってしまうなんて小津監督はどれだけ老成した人物だったのだろう。
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