大道幸之丞

魔王の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

魔王(1996年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフ監督による作品。

よくこの映画を語る場合に主人公のアベルに対して「少年の心を持ったまま大人になった」と表現しているケースが多いが私の感想ではそうではありません。

幼少時に絶体絶命のピンチに陥った際に学校が火災になり、逃れる事が出来た。そこから彼は「自分は常に神から守られている」と信じ込む様になる。ただし取り立てて具体的になにか信仰心がある訳では無い。

成人して自動車修理工になってからも、妙に子供にだけやさしい素振りから近所では「少し怪しい人」扱いされている。そしてそこである女の子に逆恨みされ虚言により逮捕されてしまうのだが、時代は戦火が迫っている事から前線に赴く事で赦免される。

しかし行軍中に野営から抜け出し付近の屋敷に出入りするとそこへドイツ軍の歓待担当の将校に出会う事でヒトラーユーゲント育成合宿所の下働きに採用される。子供に近づくことに慣れているアベルは抜群のスカウト能力を発揮し付近では「人さらい」呼ばわりされているが少年たちからは好かれている——と思いきや、

ロシア軍が迫る中で彼らを逃がそうと心を砕くが、彼らからは「敵前逃亡か!」と逆に「所詮こいつはフランス人捕虜で敵だ」と言い放たれ暴行を受ける。アベルだけが好んでいただけで彼らからするとそうでもなかった事が明るみになる。ここまでの下りでむしろアベルは私から見た場合に多分に 児童性愛者的でありそこは「大人になりたくない男=ブリキの太鼓」と同質である。

ハッキリ言って薄気味悪くうざい男であるアベルはマルコビッチの名演技によって最高にムカつくキャラにすることに成功していてここはすごいと思った。

この監督は「フリークス」と言っても良いような精神的に奇特性がある人間の存在がのっぴきならない「戦争」という力学により主人公に対しいいようにも悪いようにも作用する様を描くのが好きなのだろうか。