Jun潤

時をかける少女のJun潤のレビュー・感想・評価

時をかける少女(2006年製作の映画)
5.0
2023.07.07

細田守監督×奥寺佐渡子脚本。
公開当時は劇場で観なかったものの、その後のテレビ放送などを見て大好きになった作品。
タイムリープの知名度が高まるきっかけとなった作品のようなものだし、奥華子の楽曲や、高校生男女たちの青春の様相、その後の細田守監督作品にはもはや欠かせない夏要素のてんこ盛り加減と、恋したい時や毎年夏になると見たくなりますね。
そんな作品が、今回スタジオ地図設立10周年を記念したFilmarks様主催のプロジェクトで期間限定の劇場再上映。
公開10周年企画の4DX上映は観ていなかったので、せっかくの機会ですし劇場にて鑑賞です。

作品自体は、細田守が東映やスタジオジブリでのごたごたを経て、フリーとなってから最初の作品。
筒井康隆の同名小説を原作としつつ、原作の主人公の姪をヒロインに据えたオリジナルストーリー。
スタジオ地図設立前の作品のため、アニメーション制作はマッドハウス。
最近の細田監督作品には参加していない、井上伸一郎プロデューサーやキャラデザの貞本義行、奥寺佐渡子脚本もいた頃の作品でしたね。
2006年日本アカデミー賞に新たに創設された最優秀アニメーション作品賞の一発目で最優秀作品賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ています。

紺野真琴は、ついているといえばついているし、ついていないといえばついていない、成績が良い時もあれば悪い時もある(悪い時のほ方が多い)、どこにでもいる普通の高校2年生。
文理選択や将来の夢も決まっていないけど、男友達の千昭と功介と一緒に野球をすることが楽しくて、ずっとこのまま一緒にいられると思っていた。
しかし7月13日、ナイスの日、突然タイムリープの力を手に入れたことによって、運命は大きく変わっていく。
上手くいかなかった日をやり直したり、遊びやテストに使ったりとやりたい放題で、なんでもできると思っていた、真琴が良い思いをしている裏で嫌な思いをしている人がいるとは思いもせずに。
功介に想いを寄せる後輩・果穂の存在を機に、3人の関係は変化していく、変えられない運命、変わらない人の想いに翻弄されながらー。

『待ってられない 未来がある』
「目がなんで前についてるか知ってる?前向いて歩くためよ💢」
「Time waits for no one ← (゚д゚)ハァ?」
「俺に彼女ができたら、真琴が1人になっちゃうじゃん」
「俺、未来から来たって言ったら…笑う?」
「真琴!前見て走れ!!」
「未来で待ってる」「うん、すぐ行く。走って行く。」

公開から15年以上経っても全く色褪せることのない、青春アニメーション作品の大傑作。
初めて見た時は勢いでタイムリープや未来のことなどは流していましたが、落ち着いてよくよく観てみるとタイムリープの仕方や時間停止が唐突であったり、作中では濁されてしまった叔母さんが復元している絵と千昭の世界の関わりなど、SF考証に関して気になる点はちょいちょいあります。
それと、当時はまだ作画にリソースが割けなかったのか、人物の動きなどをよく観ると崩壊まではいきませんがなかなかの不安定さ。
しかしそれらを差し引いても余りあるほどに大爆発している青春の瞬き。

まず結末を大体知った上で観てみると序盤のうちから、フラスコや美術館のガラスに映る人影、利き手とは逆に付けているリストバンドなど、伏線が至る所に張られていたんですね。

次にキャラクターについても、真琴に何か深刻な過去があったり、千昭にシリアスな目的があったりするわけではなく、浩介も含めてただただ普通の高校生の価値観を持っていたことがまた良かったですね。
それによって、タイムリープなどのSF要素があっても、あくまで一つの青春ムービーとして観ることができました。
また、よくよく聞いてみるとちゃんとオナってきたのかよとか友梨の体調を心配する様子など、今だと誰かの琴線に触れてしまいそうですが、リアルな高校生像を出していて個人的には大満足ですね。
初めて見た時は圧倒的千昭派でしたが、今観ると功介の優しさに心打たれっぱなしですね。

そして楽曲について、今となっては主題歌を担当するアーティストが劇中歌も手がけるというのはよく見るものですが、今作の上映時期を考えると、今作がその先駆けでもあったのですかね。
まーまた奥華子の歌声と、真琴たちの心情とマッチした歌詞がまた抜群に良いし、『変わらないもの』が始まるタイミングと終わる瞬間がもう絶妙すぎて涙腺をガンガンに破壊してきますね。

目的や手段がなんであれ、自分のためにした行いが誰かを傷つけてしまったり、逆に誰かのための行動が自分の犠牲無しにできないこともある。
某映画の予告編にもありますが青春はいつだって間違えるのですね。
しかしそんな間違いや悩みが人を大きく成長させ、未来への道筋を明確にする手伝いをする、人生において必要不可欠なモラトリアム期間の一部なんですよ。
結末についても、待ち切れない未来のための確かな約束と、しばしの別れや辛いことも受け入れられるほどに他人を大切に想った結果だと思います。
今作のように甘いだけではない、まさに“甘酸っぱい”のが青春映画の醍醐味だということを、今作は教えてくれました。
Jun潤

Jun潤