天馬トビオ

血と砂の天馬トビオのレビュー・感想・評価

血と砂(1965年製作の映画)
3.5
陽気で軽快なデキシーランド・ジャズ「聖者の行進」で始まり、「聖者の行進」で終わる異色の戦争映画――いや、反戦映画、と言った方が正しいのかもしれない。前線の兵士を慰問するための音楽学校出身の少年軍楽隊が本当に存在したのかどうかは知らないが、同じ「聖者の行進」を演奏するメンバーは最初と最後では数も、精神も大きく変わってしまった。

武器の代わりに楽器を携えて登場した軍楽隊の13人の少年兵は、過酷な訓練と連日の実戦で生死の境をさまよい、「立派な」日本軍兵士となっていく。それは兵士としての成長なのか、殺人機械への変貌なのか。

厳しくも温情あふれ頼りになる上官を演じて安定の三船敏郎。笑いとペーソスを兼ねそなえたシニカルな伊藤雄之助。全身で暴れまくる好漢、佐藤允。悪役として登場しながら少年軍楽隊の演奏する唱歌に涙する憲兵の名古屋章。役職と私情の板挟みにあってなお部下を思う大隊司令、仲代達矢。岡本喜八常連組の名演が物語をがっしりと支えている。

そして、紅一点の朝鮮人慰安婦役の団玲子。ラスト、戦闘の果て、唯一生き残った(あるいは瀕死の状態)の彼女のアップにかぶる「その日八月十五日」の文字。岡本監督が、同じ「その日」の日本で起こった「長い一日」を描くのは、2年後のことである。
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