フライ

アミスタッドのフライのレビュー・感想・評価

アミスタッド(1997年製作の映画)
4.4
史実を元にした黒人奴隷を扱った、人間の尊厳が問われる作品。
スティーブン・スピルバーグ監督で大物キャストが揃った大作だが、余りヒットしなかったのは有名だしその理由も何となく分かるが、内容は本当に素晴らしいし考えさせられる胸糞、胸熱映画。

1839年奴隷貿易が禁止され奴隷問題も提起され始める中、スペイン船のアミスタッド号は、スペイン領キューバを中継し、密かにアフリカ人奴隷を買付け輸送していた。しかしジャイモン・フンスーが演じる黒人奴隷シンケが鎖を解き、他の黒人達と共に反乱を起こし船長達を殺害。アフリカに帰る為、船を操る2人のスペイン人を生かし6週間以上海をさまよっていた。しかし操船知識の無いシンケ達は、スペイン人の操船などによりアメリカ海軍に見つかりアフリカ人奴隷は全員拘束され、言葉の通じないアメリカの地で裁判にかけられようとしていた…
民衆の注目を集める中、検事は殺人罪などで刑を確定しようと動くが、人権保護活動家であるステラン・スカルスガルドが演じるルイスと、モーガン・フリーマンが演じるセオドアは人身保護令を訴える。しかしアメリカとスペインの条例を元にスペイン女王から奴隷の返却要求が届いたり、保護したアメリカ海軍の士官やスペイン人乗組員2人から所有権が訴えられたりと混乱を極める。
そんな中、マシュー・マコノヒーが演じる若手弁護士ボールドウィンや、アンソニー・ホプキンスが演じる第6代元大統領で弁護士資格をもつジョン・クィンシー・アダムズが、シンケ達を助ける為に動くのだが…

以前本作を見るまでは全く知らない事件だっただけに、鑑賞後興味が湧き調べると奴隷問題や人種差別問題、アメリカ南北戦争にも繋がる歴史の大きな流れの切っ掛けにもなった有名な事件と知り驚いた。中盤迄は事件と裁判の流れなので緊張感も有り、胸糞悪さは覚えつつも多少単調さを覚えたのは事実。しかし終盤の裁判の身勝手極まりない行方と辛い展開、そして残酷で奴隷達の地獄を描いた様な内容は、思わず目を背きたくなるし、こんな恐ろしい事が本当にあったのかと見ていて信じられなかった。故に過去の出来事とは言え、奴隷制度を正当化して来た人類の悪行には、腸が煮えくり返る思いと、本作の奴隷達を人としてでは無く物として扱う行為に言い様の無い怒りを覚えた。
人種差別映画は沢山見てきたが、その根幹とも言える奴隷問題を扱った作品は少ないだけに、人種差別問題の裏には如何に残酷な歴史が存在するのかを教えて貰える上、リアルな内容には素晴らしさも感じるだけに、とても見応えがあった。
ストーリーの秀逸さは勿論だが、重厚なキャスティングなども当然本作を面白くさせてくれるファクターであったのは事実。こんな作品良く出来たと思える残酷な奴隷シーンには、今後こんな作品製作出来ないのではと思えるだけに、黒人キャスト達に敬意の念すら抱いた。

決して愉快な作品では無いし、エグい系嫌いな人や、メンタル弱い、弱っている人には、余りオススメ出来ない映画であると言うのも事実。それでもこんな恐ろしい真実があった事を知り、考えるのは大切だと思うので興味がある人は見て欲しいし、個人的には映画史に残る大作の一つだと思っているので、機会が有れば是非とも鑑賞して欲しい作品。
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