不在

ウンベルトDの不在のレビュー・感想・評価

ウンベルトD(1952年製作の映画)
4.8
監督のヴィットリオ・デ・シーカは、戦後のイタリアにおける市井の人々の厳しい暮らしを、ありのまま描いてきた。
『靴みがき』では少年、『自転車泥棒』では壮年の男、そして本作ではいよいよ老人が主役となっている。
戦後の厳しいインフレによって最早生きていく事もままならない男だ。
彼にとっては愛犬のフライクだけが生きる理由だった。

過去の戦争を歴史の一コマとしてしか知らない私にとって、主人公ウンベルトの置かれた状況を真に理解する事は不可能だ。
しかし境遇は分からなくても、気持ちに寄り添う事は出来る。
フライクが彼に優しく撫でられる姿を見て、そんな当たり前のことを思わされた。
たとえ家族がいなくとも、自分を理解してくれる何かがあれば、それだけで生きていく理由になる。
そして犬というのは、人間よりも人間を理解している瞬間がある事を、私は知っている。

この映画はそんな主人公とわんこを背景に、『靴みがき』で悲惨な運命を辿った登場人物と同年代の子供達が、楽しそうにサッカーをしている所で終わる。
全ての世代、全ての生き物への救済がここにある。
不在

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