YasujiOshiba

ケマダの戦いのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ケマダの戦い(1969年製作の映画)
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積読BDより。お目当てはモリコーネの音楽。テーマ音楽とも言える『Abolisson』は名曲だ。タイトルの意味は「廃止」。何を「廃止」するかといえば植民地主義が生み出した奴隷。最初の革命のとき、この曲が流れて来ると感動させられちゃう。植民地へのアンチという意味でも、『ミッション』(1986)の「オーボエ」のメロディーへとつながる出色の出来ではないだろうか。

ケマダは架空の島でポルトガル支配にあったという設定だけど、おそらくモデルはハイチ革命。ハイチのあるイスパニョーラ島は、スペインが植民地化すると、先住民は金鉱山で酷使、疫病の流行もあってほとんど死に絶えたという。その後、サトウキビ・プランテーションがカナリア諸島から導入され、黒人奴隷がアフリカから連れてこられる。

そんなイスパニョーラ島をモデルに、映画の舞台となった架空の島ケマダでは、スペインの代わりにポルトガルが植民し、アメリカではなくイギリスからのフィリバスター (filibuster) が、革命、反乱、分離独立などをそそのかし、政治的、経済的な利益を得ようとする。

マーロン・ブランドが演じたウィリアム・ウォーカーは大英帝国のために働いているという設定だけど、その名前は明らかにアメリカ人フィリバスターのウィリアム・ウォーカー(William Walker、1824 - 1860)から取られたものなのだろう。

撮影はコロンビアのカルタヘナで行われたという。英国人(ブランド)に唆されて革命を起こし、のちには自らの自由のために反乱を組織するホセ・ドロレスを、そのカルタヘナでスカウトされたエヴァリスト・マルケスが演じている。

英語版ウィキによれば、マルケスは映画のホセと同じように、初めは逃げ出したのだが、やがて物おじせずにブランドと渡り合うような演技をするようになったという。じっさい、その表情は段々と変化してゆき、最後には本物の英雄の顔つきになる。

ただ、マルケスの役は、シドニー・ポワチエが考えられていたというのだから驚きだ。ポワチエが没になったのは契約がうまくゆかなかったからというのだが、むしろそれがよかったかもしれない。それくらいマルケスの存在感はずば抜けていた。

そして、マルケスの表情のリアルさがあるからこそ、ブランドのつかみどころのない嫌らしさが際立って来る。監督のポンテコルボとブランドはさんざんぶつかったらしい。でも、スクリーンをみるかぎり、みごとなフィリバスターぶりだった。
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