Ricola

幻の女のRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

幻の女(1944年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

大きな帽子を被った女性の後ろ姿のクロースショットが、作品冒頭で目に飛び込んでくる。
そう、この女性こそ「幻の女」である。
この映画の主人公スコットは妻殺しの容疑をかけられたが、犯行が行われた時間にはこの女性と一緒にいたため、アリバイを立証できるはずだった…。しかし彼女と共に訪れた場所にいた人たちは皆、彼女を見ていないと言う。
バーのマスター、派手な帽子、ショーのドラム演奏者のアイコンタクト、タクシー運転手と、目撃者は何人もいるはずなのに誰ひとりとして首を縦に振らない。

タイトルにもある消えた女性の謎は導入で我々を引きつけるだけで、サイコ・キラーものの側面がすぐに露わになる。
たしかに緊迫感のある作品であるが、ラブロマンスや意外な友情の芽生えなどさまざまな面を楽しめる。


とはいえ、サスペンスの巨匠ロバート・シオドマク監督の作品なので、緊張感はしっかり張り巡らされている。
例えば、緩急をつけたカメラワークが緊張感を増幅させる。
警察に問い詰められるスコットの絶望に満ちた表情を、カメラはズームインショットで捉える。
また、傍聴席をパンショットでゆっくりと映し出していたカメラは、「カンザス」が視界に入ると急にスピードを上げて、彼女を画面の真ん中に置く。
特段珍しい演出というわけではなく、むしろ教科書的な王道な演出であるからこそ、どこに注目すべきか、あるいは何に緊張感を抱くように仕向けられているのかがよくわかる。

犯人が自分の手を頻繁に見つめる点が印象深い。
その手で彼女の首を絞めてしまったこと、自分は万能だと信じ込んでしまうこと。
苦悩と葛藤が、その震える手に現れているのだ。

最後までハラハラドキドキのとまらない、サイコサスペンス作品だった。
Ricola

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